第21話 緊急事態(きんきゅうじたい)
「父さん!」
僕が父さんの執務室に入ると、そこには辺境伯領の主立った面々が勢揃いしていた。
「アルフレッドか……」
父さんが僕の顔を見て、眉間にシワを寄せる。
「……聞いてしまったか」
「ブランたちが行方不明になったと聞きました。何があったのですか?」
「お前は知らなくても良いことだ」
ブランたちが行方不明になった件については、どうやら僕には知られたくなかったようだ。
「父さん!」
「行方不明になったのは事実だ。だが、お前に出来ることはない」
「僕にも手伝わせて下さい。何か……何か出来るかも知れません」
「お前に何が出来る?」
「分かりません。でも連れて行ってもらえるなら……」
「このバカ者!何も出来ぬ身で探しに出ても足手まといになるだけだと何故分からん!」
普段は寡黙で、そう人に怒鳴ることもない父さんが、烈火のごとく怒りをあらわにする。
「今は問答している時間も惜しい。下がれ!」
「でも……」
「くどい!ここは我々に任せろ。ブランとプレセアは必ず見つけ出す」
「…………分かりました」
父さんがいつになく真剣な表情で、僕にそう告げる。
その横ではブランの父親である、ゲオルクが今にも人を殺しそうな表情で俯いている。
握りしめた拳が震えていた。
僕以上に心配しているのは親であるゲオルクたちなのに、じっと我慢して会議に臨んでいる姿を見て、僕は自分がいかに思い上がっていたかを悟る。
そう思い至ったとき、僕にはもうそれ以上食い下がることは出来なかった。
「トーマス、アルフレッドを外に出せ」
「畏まりました」
そして僕は、執事長のトーマスに促されて部屋から追い出された。
この世界は前世で言えば中世時代にあたる。
人権なんてものは無いに等しく、命も軽く扱われる。
昨日まで笑い合っていた仲間が、翌日には行方をくらませたり、事故で命を落としたりすることも少なくない。
辺境伯領では厳格に禁止しているが、堂々と奴隷を売買している貴族領もあると聞く。
そんな二人が行方不明になったということは、良からぬ輩に攫われたか、どこかで事故に遭ったか
確かに僕にはチカラが無い。
こんなときに提案すべき知恵もない。
大事な人たちに危険が迫っているかも知れないのに、何も出来ない自分に苛立ちだけがつのる。
「畜生お!!!!」
僕は部屋に戻るなり、壁を殴りつける。
前世の知識があっても無力な自分に惨めさしか感じない。
僕はそのまま床に座り込むと、膝を抱えて頭を垂れるのであった。
「畜生。ブラン……プレセア先生……無事ていてくれ、頼む……」
僕はいるのかどうかも分からない神に必死に祈ることしか出来なかった。
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