第187話 弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)

 どうしてこうなった………………。



 サファイラスの町にあるスラムの一角。


 わりと広めな通路のど真ん中で、僕とブランは多くの人々にまるで神様のように崇められていた。

 右を見ても左を見ても、スラムの人々がみんな片膝をついて頭を下げている。 


「やり過ぎたね……」

「うん」


 僕がブランにそう語りかけると、彼女も同じ思いだったようで、ポリポリと頬を掻いている。

 まあ、こうなってしまうのも仕方のないことだろう。

 何せ、身体に大きな怪我をして日常生活もままならないような連中を片っ端から治癒しまくった挙げ句、ブランに至っては獣人の身でありながら魔術を使っていたのだから。


「これは奇跡でありましょうか……」


 スラムの顔役である【黒羽族カラス】の【ヨルグ】さんが、涙を流しながら感慨深げにそうつぶやく。

 最初に見たときは、生きていること自体が奇跡とも思えるほどの大怪我だったが、治癒魔術を駆使した結果、今では艶のある黒髪が似合う中年の男性がそこにいた。

 スラムの女性陣は、初めて人前に出るヨルグさんの姿にメロメロだ。

 うん、イケメンは敵だな。


       ★★


「今回は皆さんにお願いがあって参りました」


 もう崇拝されまくって収集がつかないので、僕は強引に話を進める。


「全身全霊をもってお受け致します」


 そんなヨルグさんの宣言に、他の面々も同意を示す。


 いやいやいやいやいやいやいや!


 まだ何も言ってないよ。

 そんなに軽々と約束しちゃダメだよ。


 あっさりと僕たちを信じちゃダメなんじゃないかなぁと、僕は彼らを心から心配するのだった。


 確かに僕は今までに、あちらこちらのスラムに介入しては貴重な人材を確保してきた。

 フォティア商会ウチの幹部は全てがスラム出身なのは言わずもがなだが、諜報員として各地に派遣している者たちや仮面騎士ペルソナエクエスの協力者も同様だ。


 僕に言わせれば、スラムという場所は人材の宝庫ということになる。

 人権というものが存在しないこの世界においては、ひとたび弱者と見なされた者が這い上がることは稀だ。

 水に落ちた犬をさらに叩くような世界だ。

 それはまさに、弱肉強食という言葉が適切であろう。


 迫害された弱者は、やがてスラムへたどり着く。

 そこで安易に悪事に手を染めるようなヤツは論外だが、反対に苦しくともまっとうに生きようとする人々は信頼に足るというのが僕の持論だ。 

 だから僕は、いろいろと情報を収集した上で問題ないと判断したならば、スラムの住人たちを勧誘することにしているのだ。


 スラムの住人を仲間に引き込むメリットはさらにある。

 それは、様々な技能を有する者が存外多いということだった。

 権力争いに破れた元貴族だの、仲間に裏切られた元冒険者だのと、本来ならば高い金を払って教えを乞うような人材がゴロゴロしてるのだ。

 その最たるものが、王都の料理部門で責任者をしている者で、彼は元宮廷料理長だったりする。

 国王陛下にも料理をお出ししていた人物だよ。

 そんな人がスラムにいたりするので、人材の豊富さは侮れないところがあるのだ。


 そして、貴重な人材と言った件では、このサファイラスのスラムにも当てはまった。

 聞けば、このスラムの大半の人々は元東部辺境伯領軍の兵士たちだという。

 彼らは戦で大きな怪我をして、この地に流れ着いたらしいが、その二個小隊分の兵隊が確保出来るということになる。

 しかも彼らは、元軍師直属の特殊部隊員だとか。

 その実力は、最精鋭と謳われる【黒色胸甲騎兵隊シュバルツ・クィーラスィア】よりも遥かに上だと怪我を治した面々からは力説されたほどだ。


 予想以上に貴重な人材の協力を得られそうだとほくそ笑んだ僕は、改めてこれから依頼する内容を告げる。


「これからで、食材や生活必需品を販売します。そこで皆さんには、その護衛をお願いしたいのです」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


アル「人材、ゲットだぜ!」


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