第47話 正体不明(しょうたいふめい)


「テメエ、ふざけやがってぇぇ!!おめえら、とっとと殺っちまえ!」


 頭と呼ばれた男が、先ほどの爆発に巻き込まれなかった手下たちにそう命令する。

 仲間を傷つけられた手下たちは、仮面のふたりの謎の技に怖気づいているが、かしらの威圧に負けて、破れかぶれで襲いかかってくる。


 手に手に角材やナイフ、錆びついた剣などを持って襲い来る手下たち。

 一度、受け損なえば、大怪我をすることは必至である。


 【騶虞すうぐ】から地面に降り立った白い仮面の騎士は、殺到する手下の攻撃をやすやすと避けてカウンターで殴りつけている。

 赤い仮面の騎士…………もういいや、僕はそれを後方から無詠唱魔術で援護する。


 ついでに、追いかけられていた少女の周囲にも結界を展開し、万が一が起きないようにする。


 舐めプをする以上、手抜かりがあっては元も子もないからだ。


 白い仮面を付けたブランは喜々として、手下たちを殴りつけていた。



 僕らがこんなことをしているのには、訳があった。



 昔から僕がひとりで寝ていると、いつの間にかベッドに潜り込んでいた幼なじみ。


 そのうちに、当然のように僕のベッドで一緒に寝るようになり、最近では寝物語までご所望されるようになった。


 最初のうちは、グリム童話だのアンデルセン童話のかすかに覚えているものを話して聞かせていたのだが、そのうちにだんだんとネタが尽きてきた。


 それでも、かわいい幼なじみの期待を裏切れない僕は、日本の昔ばなしやテレビアニメ等をこちらの世界風にアレンジして話すことにした。


 するとブランは、某『仮面のライダー』や『戦隊物のヒーロー』にハマってしまったのだ。

  

 以前に、勧善懲悪ものとして、『ミトの副宰相』や『暴れん坊国王』を話したときにやけに食いつきが良かったんで、試しにお話してみたら、実際に自分もやると言い出してしまったのだ。


 ヒーローに必要な力や技は、魔術があれば何とかなる。

 それを支える資金は……ある。

 最近、ちょこちょこと前世の記憶を切り売りしていたら、以外にもバカ売れしたのだ。


 あれ?

 これはもしかして、リアルヒーローごっこが可能か?


 そこに思い至った僕らの動きは早かった。


 領内の職人のツテを頼って装備を整える。


 騎士というからには、騎乗する動物が必要と言うことで、わざわざ辺境伯領の最西端にある【アグニス】の街に【転移】して、その眼前に広がる【大森林】まで探しに行ったりもした。


 こうして、僕とブランの自己満足お遊びによる人助けヒーローごっこが始まったのだった。


 すでに何度も領都の悪を退治して来た【仮面騎士ペルソナエクエス】であったが、ここに来てひとつ予想外のことが起きてしまう。



 ―――ブランが役にハマりこみ過ぎるのだ。


 今も、大立ち回りしているブランの尻尾が大きく左右に触れている。


 あかん、スイッチが入ってもた。


 思わず言葉がおかしくなるほど緊急事態だ。


 こうなると、ブランは敵を殲滅するまでとまらなくなってしまう。 


 今回の件は、殲滅じゃダメなんだよ。


 このままだと、計画が狂ってしまう。



 そんなことを考えて、僕はブランを静止しようとする。


 すると、そんな僕たちの耳にようやく待ち望んでいた声が届く。


「待てえええ仮面カメーン!今日こそ逃がしはせんぞおおおお!」


 それは、領軍を率いたゲオルクの声であった。






 

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