第140話 手練手管(てれんてくだ)
その冒険者たちは、隣国の連合国で活動していたが、訳あってこのアグニスに移り住んで来た。
常に命の危険が伴う冒険者という性質上、どこか一箇所に拠点を設け、腰を据えて臨んだ方が、未知よりも既知という面から比較的安全に
だが、そんな利点を捨ててまで、王国の辺境までやってきた彼らを、アグニスの冒険者たちは胡乱げな目で見ていた。
曰く、莫大な借金から逃げてきたのではないか?
曰く、人を殺したから逃げてきたのではないか?
酒飲みの席で、まことしやかにそんな会話が繰り広げられるほど、彼らは異質であった。
それでも、Cランクという中堅的な立ち位置と、他の冒険者が嫌がるような
新人たちの指導を任せられるほどに。
それが、【神旗の約定】の面々であった。
リーダーである剣士の【イアン】斥候の【ドミニク】、拳士【ポーラ】、魔術師の【ジーナ】の4人組パーティー。
そして彼らは今、大森林の中層に現れた深層に生きる魔物の襲撃を受けていた。
かろうじて、ジーナの結界で【
「ねえ、どうするか決めてよ」
ジーナの切羽詰まった声が、事態の緊急性を物語っている。
それでも、【神旗の約定】のリーダーであるイアンは穏やかな笑みを浮かべている。
彼らに師事している【軌道の戦士】の【ノア】は、その姿を見て何か奥の手があるのだと確信する。
(スゲえ!さすがイアンさんだ。こんな状況なのに全然動揺してねえよ。ここを切り抜ける手があるんだな……)
そして、これがもし孤児院の仲間である【蒼穹の金竜】や【叛逆の隻眼】の師匠たちだったらと夢想する。
(
ノアは、自分たちがいかに優れた先達に師事をしたのか、その幸運を噛み締めつつ、期待を込めて尋ねる。
「イアンさん、この場を切り抜ける奥の手があるんだろ?早く見せてくれよ」
「ああ、そうだね」
少年のそんなキラキラした眼差しを見つめ返すイアンは、返事をしながらゆっくりと腰の剣を引き抜く。
「…………えっ!?」
次の瞬間、ノアの腹部に強烈な痛みが走る。
それはまるで、腹の中に熱した鉄棒を突き刺されたかのような痛み。
何が起きたのか理解できずに視線を落としたノアの腹部には、イアンの持つ剣が深々と突き刺さっていた。
「…………なんで」
ノアがそうつぶやくと、背後から仲間たちの悲鳴が聞こえて来る。
地面に倒れ込んだノアの視線の先には、同じように切りつけられ血塗れになった仲間の姿があった。
「ギャーッハッハッハッハ!ねぇねぇ、今どんな気持ち?」
「おい、殺すなよ。生き餌なんだからよ」
「キャハハハハ。見なよ、コイツらの顔。絶望したいい顔してるよ」
「あーっ、魔術で焼き殺せないのが悔しいわ」
そして、頭上からは【神旗の約定】の面々の嘲笑が聞こえてくる。
「…………ど、どうして」
自分たちが尊敬していた先達から裏切られたのだと理解したノアは、目に涙を浮かべてそう尋ねる。
すると、目を見開き舌をだらっと出したイアンが、ノアの目の前に顔を近づけて答える。
「ギャヒャヒャヒャヒャ、お前らなんてよ
「そんな……だって、俺たちは……」
「前途有望だってか?あり得ねえだろうよ。剣もまともに振れねえし、危険の予測も出来ねえ。しかも、俺たちに心酔してるなんて
腹を抱えて笑うイアンの姿は、先程までの柔らかな笑みを浮かべていた者と同一人物とは思えなかった。
「いやぁ、苦労したぜ。あまりにもザコ過ぎて、褒めるところが無いんでよ」
「ホントにな。しまいにゃ、『その気構えがいい』なんて褒めちまったよ」
「キャハハハハ!ちょっと、アンタがあんまり真面目な顔して褒めてるからさぁ、コッチは笑いをこらえるのが大変だったんだから」
「そろそろ、行くよ。アタシの結界もそろそろ限界だ」
「そうか?もう少しコイツらの絶望的な顔を見ていたかったんだがな」
「あっ、多少は怪我をして帰った方がいいか?」
「そうね。大森林を抜ける時でいいでしょ。それよりも、アンタ。ちゃんと神妙な顔をしなさいよ」
「ぁあ?そういや、
「そうそう、頼むから笑わせないでよね」
「上手くできるかなぁ」
「ってなワケで、さようなら。アタシの結界が持つのはあと10分くらいかな?それまでに死ぬ覚悟を決めな」
「ギャヒャヒャヒャヒャ!アバヨ!魔物を引き付けるためにもせいぜい囀ってくれや」
そう言い残して、【神旗の約定】の面々は悠々と戦場を離れて行く。
その背中を見送ったノアは、血の涙を流しながら己の浅はかさと、先達の悪辣さを恨むのであった。
「……ちっ、ちくしょう」
★★
その三時間後。
冒険者ギルドに血塗れで転がり込んだ【神旗の約定】の面々から、大森林の異常事態が告げられる。
――――中層において
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ってなコトで、胸糞悪い展開となりました。
早急に更新しますね。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
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