第139話 前途有望(ぜんとゆうぼう)

 孤児院の同年代3パーティーのうち、アルフレッドたちの指導を受けていないのは【輝道の戦士】のメンバーだけであった。

 彼らは現在、Cランクパーティーの【神旗の約定】に師事しており、その指導者たちから『指導方針がブレるから、余計なことを学ぶ必要はない』と他者に学ぶことを諌められた、というのが表向きの理由。

 本当の理由は、アルフレッドやブランの指導が【輝道の戦士】たちのプライドを粉々に打ち砕き、全員が今後も指導を受けるのを嫌がったというものだった。


「だってですね、アイツらおかしいんですよ。」

「俺たちは、この剣さばきで良いってドミニクさんに言われてるのに、やれ力まかせだだとか、隙が多いだとかってうるせえんですよ」

「そうよね。私たちよりも年下のくせに、何だか偉そうでさ」

「ちょっとマグレで大物を倒したからって、調子に乗ってるんだよな」

「だいたいさぁ、【蒼穹の金竜】の奴らなんて、未だに大森林に入れないんだぜ」

「毎日毎日、使いっ走りと訓練だとさ」

「アハハハッ。かわいそう〜」

「ホント、俺たちって指導者に恵まれたよなぁ」

「フフフ……。前途有望な若手にそう評価してもらえると嬉しくなるね」


 そんな会話を交わしていた【軌道の戦士】たちの会話に割り込んで来たのは、【神旗の約定】のリーダーである戦士の【イアン】

 糸目で柔和な表情の彼はとても剣士とは見えないが、その剣さばきは巧みで他者とも隔絶していた。

 またその丁寧かつ優しい指導で【軌道の戦士】の面々からは絶大なる信頼を得ていた。


「それにしても、その少年冒険者たちって、最近話題の【昇龍】と【龍雲】でしょ?」 

「おおかた、どこぞの貴族の子女だって話だよな。で、ギルドが忖度して二つ名を与えたって」

「そもそも、獣人が魔術を使えるなんて、何かタネがあるって言ってるようなものじゃない。そう簡単に、魔術を使えますかっての」


 イアンの言葉に続いたのは、同じパーティーの拳士【ポーラ】、斥候の【ドミニク】、魔術師の【ジーナ】であった。


 今日は【軌道の戦士】たちが初めて中層に挑むとあって、いつになく口数が多いのだが、【神旗の約定】はそれを咎めることなく会話に加わっていた。


         ★★


 そしてやってきた大森林の中層。

 浅層よりも木々が密集し、太陽光が遮られる箇所がところどころに見受けられる。


 浅層よりも肌を刺す緊張感に、前途有望と称されたさすがの【軌道の戦士】たちも恐怖を感じる。


「大丈夫、大丈夫。今日は僕たちの狩りを見るのが勉強だよ」

「そうよ、アタシたちの強さをよく勉強しなさい」

「前方に敵2。オークだな」

「よし。中級で行くからよろしく」

「「「おう!」」」

「【炎矢フランマ・サジッタ】」


 そう、軽口をたたくだけあって、【神旗の約定】たちは中層の魔物たちを次々と屠っていく。


 最近はギルドの指示により、上級と言われるBランク以上の者でなければ中層への立ち入りを禁じているだけあって、手つかずの素材や間引きされていない魔物たちが多く存在し、彼らにとってはよい稼ぎ場であった。

 

 順調に魔物の討伐や収集を行っていく一同。

 彼らは無理をしてでもやってきて良かったとの思いを抱く。


 多少のルール違反は犯しても、結果が良ければそれでいい。


 それが、【神旗の約定】の面々の考えであり、そんな指導を受けている【軌道の戦士】たちも、そうすることが正しいのだと思っていた。


 ―――――このときまでは。


 突然に大地を震わせる咆哮が上がったかと思えば、周囲の魔物たちが一目散に逃げていく。


「これは!?」

「イアンさん!?」

「何かが来る」

「ここここ、これは……」


 【軌道の戦士】たちが、周囲のただならぬ雰囲気に青白い顔で、自らの指導者に尋ねる。


「大物が来るか……」

「マズいわね……」

「チッ、やっぱり大森林がおかしくなってやがる」

「来るよ!」


 だが、【神旗の約定】の面々はそれに答えず、やってくるであろう強敵との対峙に集中していた。


 やがて、目の前の草をかき分けてそれが姿を現す。


 見上げるほどに大きな体躯。

 獅子の胴体に、醜い人の顔。 

 どこまでも届く咆哮は、あらゆるものに恐慌状態の【能力低下デバフ】を与え、その長い尾は蠍のように鋭い針を有し、触れただけでも身体を腐食される猛毒をもつ。

 

 【蝎獅マンティコア


 それが彼らの眼前に現れた魔物の名であり、明らかに大森林の深層に生きる強者であった。


 完全に追い詰められた【神旗の約定】と【軌道の戦士】たち。




「さて、どうしようかね……」


 だが、慌てることもなくそう言ったイアンは、その顔に暗い笑いを浮かべるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★


難産で何度か書き直しました。

アルが乞われるままに街づくりをするのがあまりしっくり来なかったので、話を進めることにしました。


次話は早いうちに更新します。





拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 


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