第119話 才能開花(さいのうかいか)

 庭に出ていくと、そこでは【蒼穹の金竜】の拳士カズキが地面に倒れており、その身体からは出血が見られた。

 うめき声を上げながら、胸を押さえているので、肋骨も折れているようだ。


 僕は直ちに様態を確認し、とりあえず生命に別状がないことは確認できた。


「何があった?」

  

 僕が【蒼穹の金竜】のリーダーてあるソウシに尋ねると、彼は声を震わせながら、恐る恐る答える。


「止めろって言ったのに……。カ、カズキが馬の角を握ってふざけ始めたんです。そ、そしたら……」

「蹴り飛ばされたってことか?」

「は、はい」

   

 僕が少し強く尋ねたのは、おそらくそんなことだろうと思ってのことだった。

 【蒼穹の金竜】たちが戦っていたのは、わざわざ僕がつれてきた【くがね】だったのだから。


 そもそも、僕らが【蒼穹の金竜】の心理的負担を無くすためにと、孤児院の環境改善を行っているというのに、よりによってこの面々は、暇だだの、腕が鈍るだのとのたまわったのだった。


 そこで、僕はくがねを連れてきて【蒼穹の金竜】の訓練相手としたのだった。

 その際、賢い動物だとは言え、角を触れられると激怒するので決してそのような真似はするなと釘を差してあったのに……。


 もちろん、くがねは普段は温厚であるし、訓練で誤って角に触れたり、何も知らない幼児がそれに触れても怒ることはない。

 それなのにここまでされるとなれば、よほど角に触れて騒いだのであろう。


「このバカが!」


 思わずカズキの頭を殴ってしまったが、そこは許して欲しい。

 ここまでバカだったとは思わなかったのだ。


 幼いとはいえ、その正体は五霊獣の一【麒麟】だ。

 討伐ランクで言えばSランクを優に超える相手に、そんなことをして、この程度で済んでいることをありがたく思えと言いたかった。


「正体、知らなくても、ダメと言われたことをしたコイツがバカ」


 僕が怒っているのを肯定してくれるブラン。

 同じ意見であることが少し嬉しい。


「こうなったら、罰として実験台になってもらうからな」

「えっ!?」


 僕の宣言に、情けない声を上げるカズキ。

 そんなに簡単に癒やしてやると思うか?

 許さんよ、僕は。


「カズキ!」

「カズ兄!」

「カズ!」


 するとそこに遅れて、ジュリアさんとミクちゃん、レナちゃんがやって来る。

 倒れているカズキの姿を見て何があったのかを理解したのであろう、3人の声は震えていた。


 特に、レナちゃんは半狂乱状態でカズキにすがりついて泣いている有様。


 はは〜ん。


 おじさん、分かっちゃったもんね〜。

 これはアレだな?

 カズキに惚れてるな?

 良きかな良きかな。


 訳知り顔でうなずいていたら、ブランに冷たい目で睨まれた。

 何故に?



 まぁ、話を戻そう。

 それじゃあ、カズキにはジュリアさんの治癒魔術の実験台にでもなってもらおうかと思っていたら……。


 んんん?


「カズーーー!!!」


 カズキにすがりついて泣いているレナちゃんの手に魔力が集まっている。

 これはもしかすると……。


「レナちゃん、カズキをどうしたい?」

「ぐすっ。うぐっ……な、なおしたい……」

「そっかぁ……。じゃあさ、どんな風に治したい?」

「血が出てる……から」

「そっかぁ。それならケガが治れって念じてみて」

「…………うん」

「傷口はどうしたらいい?跡が残っても大丈夫?それとも、元のように傷ひとつ残らない方がいい?」

「元の方がいい……」

「よし、傷ひとつ残らないように頑張ってイメージしてみよう。ツルツルの肌に戻れってね」 


 レナちゃんにイメージの方向性を伝える僕。


「い、痛てて。お、おい、何してんだよ……」

「黙れ」

「…………はい」


 自分の周りで何やらされていると気づいたカズキが、痛みを推して尋ねるが、ブランに一喝される。

 せっかく安全な訓練相手を準備したのに、このようなことになってブランも激怒している。

 そのため、そのような粗雑な扱いだ。


「ジュリアさん、レナちゃんに治癒魔術の詠唱を教えてあげてもらえませんか?」

「えっ!?ま、まさか……」

「そのまさかです。もしかすると出来るかも知れませんよ」


 そう言って笑いかける僕。

 ジュリアさんは半信半疑だ。

 何せ厳しい修行を経て、治癒魔術は身につくものと言われていたのだから。


 そして、その時がやってきた。


「…………いやせ【治癒(サナーレ)】」


 レナちゃんがそう唱えると、弱々しい光が手のひらに集まり効果を及ぼす。


「おっ、おおおおおおおお!」 

「…………まさか、こんなこと……って……」

「スゴい……」


 その場にいた一同が、驚きで言葉を失う。


 

 カズキの身体のキズは、跡ひとつすら残さずに完治していたのだ。


「狙いどおり」


 僕は思わずほくそ笑む。


 今ここに、幼い治癒魔術師が爆誕したのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


まさかの才能開花でした。

ミクちゃんが覚えるのが遅いのではなく、、レナちゃんが異常に早かったのです。

そこにあるのは愛の力でしょうかね。



次の更新は、嘘偽りもなく三日後です。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。


 


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