第120話 張眉怒目 (ちょうびどもく)
カズキの見えるところのケガはレナちゃんが癒やした。
そして、肋骨などの見えない部分のケガは、ジュリアさんの治癒魔術できちんと癒やすことが出来た。
「こんなに癒せるなんて……。アルフレッドさん、ありがとうございます」
どうやら、ジュリアさんの治癒魔術の効果も高めることに成功したようだ。
聞けば、以前のジュリアさんは今のレナちゃんと同等程度。
そりゃあ、冒険者たちも離れていく訳だと納得した。
…………ただ、おかしいんだよな。
そんな、腕前が不確かな者をひとりでこんな辺境の教会に置いておくものだろうか?
「先代の神父様は、骨折程度なら癒やしておいでだったのですが……」
そう語るジュリアさん。
どうやら、国内の神聖教会を取り纏める王都の管区教会への連絡も、度々話題に上る協力者とやらが行っていたそうだ。
ますますきな臭くなって来たな。
「ぐはっ!」
「ギャッ!」
「きゃあ!」
「痛ぁぁぃ」
「すぐに立て」
そして今、治療が終わったカズキは、仲間とともにブランの指導を受けていた。
「前衛が弱い!」
「ぐえっ」
「カハッ」
ブランが、接近戦を挑んできたソウシとカズキの腹に拳を叩き込む。
「援護が遅い!……穿て【
「キャッ」
同時に詠唱破棄した魔術で造られた石の矢がカノンのローブを射抜く。
「逃さない。……そを阻め【
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、不利を悟ったマヤの行く手を石の壁が阻むのであった。
もはや、息も絶え絶えな【蒼穹の金竜】の面々。
「さあ立て。まだ終わらない」
「ハァハァハァ……ブランさん、ま、待って」
「ゴメン、ホントにゴメン…………だ、だから……」
「もう魔力が……」
「ねぇ、みんなこんなにヘトヘトなんだからさぁ……」
「魔物は待ってくれない。……穿て【
「「「「ギャァァァァァァァァァ!!!」」」」
へたり込んだ四人の目の前に、数多の氷の矢が突き刺さる。
「「「「もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
【蒼穹の金竜】への訓練は、終わる気配すら見えなかった。
それどころか、ブランはあの場所から一歩も動いてないし。
完全な蹂躙劇だよ。
そんな様子をニコニコと眺めていた僕の袖を、くいっくいっと引く者がいた。
「ん?どうしたの?」
「ねぇねぇ、まじゅつのれんしゅうはもうおわり?」
見ればミクちゃんが、僕を見上げてそう尋ねてくる。
「アタシ、もっとれんしゅうしたい」
「えっ?でも、あまり根を詰めても上手くいくものでもないよ」
「でも、やる!」
どうやら、自分だけ魔術が使えないことが不満なご様子。
その姿に、僕は思わず幼い頃のブランを思い出す。
彼女もまた昔は思ったように魔術を使いこなせなくて、忸怩たる思いを繰り返したひとりだった。
獣人が魔術を使えるだけでもスゴいと、何度言って聞かせても彼女は決して努力することを諦めなかった。
――――アルと同じところで、同じものを見たい。
そんな言葉を繰り返しては、結果が出るまで努力し続けたのだった。
僕はそんなことを思い出して、クスリと笑うとチラリとブランの様子を覗う。
すると、僕と目が合ったブランは、面白くなさそうに唇を突き出すとそっぽを向く。
以心伝心で結構なことだ。
「分かった。それじゃあ、ここはジュリアさんとレナちゃんに任せて、僕たちはあっちで魔術の練習をしようか?」
「うん!」
僕とミクちゃんは、さらに大きくなった破壊音と悲鳴を背に孤児院に戻るのであった。
「お兄ちゃん、ミクもみんなみたいにまじゅつがつかえるようになるかな?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんも頑張って教えるからね」
「うん!」
こうして、家庭訪問の一日は夕暮れを迎えるのであった。
余談になるが、【蒼穹の金竜】の面々が満身創痍の姿で孤児院に戻ってきたときに、そのボロボロの服装を【浄化(パーゲイション)】でキレイにしたのはミクちゃんでした。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
訓練なので暴力は振るっていません。
だからセーフ♪
次の更新は三日後です。
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