第121話 料理番組(りょうりばんぐみ)

 チャララ〜ラ、ラッララ〜

 チャララ〜ラ、ラッララ〜

 チャララ〜ラ、ララララン、ウッラ〜


 僕の頭の中では、前世でたまに聞いていた、3分の調理番組のテーマソングが流れている。

 家庭訪問で概ね知りたかったことや、するべきことを終えたので、これからは【蒼穹の金竜】たちに買いに行かせた食材で夕飯の準備をする。


 もちろん、料理をするのは僕。


 ハラハラしながら、僕の様子を覗っているジュリアさんを押しのけて、僕は調理台に向かう。


 …………むっ、ちょっと身長が足りないか? 


 僕は無詠唱で【創造(クレアーレ)】の魔術を展開すると、二段ステップ式の踏台を生み出す。

 どこからか、驚きの声が上がるが気にしない。

 これから楽しい料理をするのに、余計な称賛を受けてる暇はない。



 まずは、茹でたジャガイモソラヌムをつぶす。


「お兄ちゃん、やってもいい?」

「お手伝いするよ」


 すると、治癒魔術の練習で仲を深めた、ミクちゃんとレナちゃんが積極的にお手伝いをしてくれる。

 ちなみに、僕の相棒はまだ特訓中なので不在。

 正直、人手があるのはありがたい。


「ありがとう。じゃあ、そこのジャガイモを潰しててもらえるかな?スプーンやフォークはそこにあるからさ」

「分かった〜!」

「これをつぶせばいいの?」

「そう。思い切りやっちゃって」


 そう告げながら僕は、玉ねぎウニオーにんじんパースニップきゅうりククミスを切り分けていく。

 この世界でも前世と同じような野菜が存在するため、料理をするのに苦労はしないのだが、名前が異なるのでちょっと困る。


 そんなことを考えつつも、調理の手は止まらない。


 塩漬けのオーク肉を短冊切りにすると、これまで切り分けた野菜や、潰し終えたジャガイモソラヌムと混ぜる。

 最後にマヨネーズで全体を和え、塩・こしょうで味を整えると『ポテトサラダ』の出来上がりだ。


「手伝ってくれた人の特権。味見していいよ」

「ホントに?うわぁおいしい〜」

「すごいすごい、おいしい!」


 ミクちゃんやレナちゃんの反応も上々。

 これなら大丈夫かな?


 今回、僕は孤児院のみんなにこれからどんなものが食べられるようになるかを知ってもらうために、マヨネーズを始めとした卵料理を多く作ろうと思っている。


「アルフレッドさんは、手慣れているのですね」

「ええ、料理するのはもともと好きなんですよ」

「素晴らしいことですね」


 先ほどまでは、ハラハラとしながら様子を見ていたジュリアさんだったが、僕の手つきから料理には熟れていると判断してくれたようだ。


「ねえねえ、お兄ちゃん。それで肉は焼けてるの?火がついてないけど……」


 すると、ポテサラが入ったボウルを抱えて味見をしているミクちゃんが、そんなことを尋ねてくる。


「ああ、これは魔術でフライパン自体を温めてるんだ。僕には火の適性が無かったからね」


 そんな風に答える僕。

 トラウマだなんだって、わざわざ伝えることでもないしね。


 僕は【加熱キャリファクション】の魔術でフライパンを熱していた。

 イメージ的には、前世のIHクッキングヒーター。

 これで、火が無くても十分に調理ができる。


「ふ〜ん」


 僕が魔術を用いていたと知ると、とたんに興味を失うミクちゃん。


「何でそんなに興味を失うのかね?」

「だって、私には無理だもん」

「いやいや、そんなことはないよ。ブランお姉ちゃんだって、たくさんの魔術を使っているだろ?」

「無理だよ。ブランお姉ちゃんって、見ただけで上品なお貴族様って分かるもん。きっとどこかのご落胤なんだよ」


 そう言う少女。

 前世で言えばまだ小学校低学年の少女が「ご落胤」って……。

 しかも、その意味も分かっているようだ。

 この子たちは、貧しいからこそいつまでも子どもでいられなかったのだろう。

 生きるためには、大人びなければならなかったのだと不憫に思う。


 だからこそ、僕はあえて明るく答える。 


「う〜ん。魔術ってもっと自由で楽しいものなんだよ。自分で出来ると思えば叶うんだ。それがたとえ平民だとしてもね」

「でも……」

「そんなことを言ったら、ミクちゃん自身やレナちゃんはどうするの?昨日までは全く魔術が使えなかったはずなのに」

「これは奇蹟なんだよ。だから一回でおしまい」

「そんなことはないよ。奇跡は起こるよ、何度でも」

「ホントに」

「ああ、諦めなければきっとね」


 そう言って微笑むと顔を赤くして俯く少女。

 おやおや、どうしたのかな?


 だが、そんな思いも一瞬。 

 顔を上げたミクちゃんが、必死の形相で僕にすがりついてくる。


「じゃあ……じゃあさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「ま、また魔術を教えてくれる?」

「時間があればいくらでも」

「ホントに!?」

「嘘はつかないよ」

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 どうやら、よっぽど嬉しかったようだ。

 調理場なので、さすがに飛び上がることはしないが、身体を上下に揺すって感情を表現している。


「いやぁ、嬉しくなったらお腹すいたよぉ……」


 そんなことを、言いながらボウルのポテサラを食べ始めるミクちゃん。


 おい、それは味見だぞ?

 なんか、ガツガツむさぼり食っているようにも見えるけど…………。



 後年、僕に弟子入りしたミクちゃんが、【百魔】と呼ばれる高位の魔術師になるとは、このときは誰も知る由もなかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


カッコつけて料理の描写を入れようとしたら、筆が止まりました(´・ω・`)


料理系の作品を作れる人はすごいなと実感した次第です。



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