第159話 粒々辛苦(りゅうりゅうしんく)

「魔物襲来に伴う避難命令が発出されました。速やかに危機管理センターまたは教会へ避難して下さい。これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません」


 【拡声ラウドスピーク】の魔術を付与した拡声器から、避難を促す緊迫した指示が流れる。


 領都とは異なり、大森林に面しているアグニスの街では、このような魔物災害も事前に予想されたため、僕は領主のグスタフさんから依頼を受けて、そのような魔物から人々を守るための施設も手掛ていた。

 それが危機管理センターの建物と、お披露目したばかりの教会。

 

 こんな事態も想定して、建物の地下に巨大なシェルターを設け、人々を守る準備はしていたのであった。


 まさか、大森林の深層にいるはずの火竜ファイアードレイクが現れるとは思っていなかったが……。

 

 

 隠してはいるが辺境伯家の嫡男で、防災を提案した立場でもある僕は、グスタフさんから防災参与という肩書を与えられていた。

 これは非常時には、危機管理センター長の【ナール】さんへも指示を出せる権限。

 前世の知識もあり、防災への造詣が深いと判断してくれたグスタフさんから特別に与えられた地位であった。


「とりあえず避難さえ出来れば……」


 目の前のスクリーンに映し出される光景に、歯が噛み合わないほどに震えているが、今やるべきことはやらなければと自分自身を叱咤して、次々と避難指示を出していた。


「ナール、状況は?」


 するとそんなとき、司令室にどこで○ドアじゃなくて転移門が現れると、中から街の総責任者であるグスタフさんが出てくる。

 彼は眉間に深いシワを刻みながら、開口一番にそう尋ねる。


 教会のお披露目式に参加していたグスタフさんも、非常事態だと判断して危機管理センターこちらにやってくる途中だったのだが、さすがに教会からは距離が離れすぎていて時間がかかると思った僕は、ブランに迎えに行ってもらったのだった。


 ナールさんに現場説明を任せて、僕は遅れてやってきたブランを労う。


「ありがとう、助かったよ」

「ん」

教会の方あっちはどうだった?」

おじいちゃん枢機卿が指示をしてた。みんな教会へ避難できてたと思う」

「良かった」

「これも普段の避難訓練のおかげ」

「そうだね。ブランにそう言ってもらえると嬉しいよ」

「ん」


 災害発生時に何が一番恐ろしいかと言えば、パニック状態に陥ったり思考停止になることだ。

 それを未然に防ぐためには、定期的に避難訓練を行い、身体にどうするべきかを叩き込むことが必要だった。

 そうグスタフさんに力説して、月に一度避難訓練を行ってもらっていたのだが、どうやら功を奏したようだ。

 こんな時ではあるが、ブランに褒めてもらって嬉しさを感じてしまう。


「話は聞いた。領軍を火竜ファイアードレイクに当てるつもりじゃ。冒険者たちも向かわせたかったのじゃが、現在、とある任務でAランク以上の冒険者が不在…………おそらく、現在街にいる冒険者の中ではアルフレッド様とブラン嬢が最高戦力じゃ」


 そんなとき、状況を把握したグスタフさんが僕らの前にやってくると深々と頭を下げる。


「頼む、火竜ファイアードレイクを押し返すためにも力を貸して欲しい」


 僕は「炎に心的外傷トラウマ持ちなんですけど……」という言葉を飲み込んで、真っ赤な炎に包まれているスクリーンを見つめるのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


あとはSランク人外たちに任せようと思っていたアルでしたが、そうは問屋がおろしません。


ガンガンとトラウマ持ちを炎の中に向かわせる作者でした。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る