第158話 急転直下(きゅうてんちょっか)

 大聖堂や教会のお披露目会には、アグニスの街の住人のほとんどが集まっているのではないか。

 そう思われる程に多くの人員で賑わっていた。


 午後には式典が行われるものの、まだ時間前だというのに身動きが取れないほどの人出であった。

 その人の多さといったら、前世で言うところの初詣くらいの大賑わいだ。


「おっ、アルくんだ。今日はおめでとう」


 一応、大聖堂を作った本人なので、教会の関係者として人の流れを見ていた僕とブランにそんな声がかかる。


「ランドさん、今日はご足労いただきましてありがとうございます」 


 そこにいたのは、僕とブランがお世話になっている酒場【かがり火ファッケル】の店主ランドさんと、その家族たちだった。


「こんなイベントがあるとなったら、ウチの店には客も来ないだろうからね、今日は臨時休業さ」 

「うちの人ったら、昨夜から子どもみたいに楽しみにしててねぇ」

「おい、余計なことは……」

「いいじゃない、本当のことなんだから」


 どうやら、このお披露目会を楽しみにしててもらえたらしい。


「ホントにアルくんとブランがあの大聖堂を作ったの?」


 するとそこに、ランドさんの娘アリシアが会話に加わる。


「そう」


 どこか誇らしげなブラン。

 でも、勘違いされては困るので、僕は念を押すために口を出す。


「いやいや、あくまでも僕とブランは建物を作っただけで、細かい装飾なんかはこれから職人さんにお任せするんだよ」 

「相変わらず何を謙遜してるのか分からないけど、その建物を作ったことが凄いんでしょうが」

「そう、アルはいつも訳の分からないところでへりくだるのが欠点」

「えっ、あははは…………」


 女子ふたりに厳しい指摘をいただいてしまい、乾いた笑いを浮かべる僕。

 だって仕方ないじゃないか、前世は一般的な日本人の僕に「これを作ったんだぜ、へへへ」と自慢するような図太さはないよ。

 そういうことは慎むのが日本人の奥ゆかしさなんだからさ。


 そんなことを思っていたら、ランドさんから助け舟が。

 ありがたい。


「アルくんはそういう性格なんだから、あまり責めちゃダメだよ。それにしても、教会カレーはいつ食べても美味いねえ」

「食べていただきました?今日の分は、いつもよりも煮込み時間を長くしてみたんです」

「そうか、煮込み時間かぁ。さすがカレーだ、奥が深いね。ウチもうかうかしてられないな、アグニス三大カレーの地位から落ちないようにしなければ」

「アハハハハッ、ありがたい称号ですけど、プレッシャーにもなりますよね」

「そうだね。うちも来週からはボアカツカレーを提供してみることにしたんだ」

「おっ、ついにお目見えですか?」

「ああ、ようやくアルくんが作ってくれたものに近づけたような気がするからね」


 そう言って自信ありげに笑うランドさん。

 以前に、肉にパン粉をつけて油で揚げる、いわゆる揚げ物料理のやり方を教えたのだが、ついに彼が納得できる完成度に至ったらしい。

 この世界で、カツカレーならぬボアカツカレーが生まれるようだ。


 これは今度食べに行くのが楽しみだ。



 そんな会話を交わしていると、人々の喧騒を遮るようにひときわ大きなサイレンが鳴り響く。


 それは、最近導入された街の人々に危険を知らしめる合図。


「なっ、何があったんだ?」

「分かりませんが、ちょっと行ってみます。ブラン」

「ん」


 僕がランドさんにそう告げて、背後を振り返るとそこには既にどこで○ドア……否、転移の扉が準備されていた。

 さすがは相棒バディ、僕の行動を読んでいるね。


 躊躇なく飛び込んだその先は、最近アグニスの町に設けられた危機管理センター。

 僕の提案を受けて設立されたもので、非常時にすべての指示をここから出すための施設だ。

 防災を提案した立場上、何かあれば手伝おうと思ってここまでやってきたのだった。


「何がありました?」


 僕が、グスタフさんの部下で街の防災を一手に担う危機管理センター長の【ナール】さんに尋ねる。

 すると、長身でメガネをかけた一見して文官といった雰囲気の男性が、現状について教えてくれた。


「おお、アルくんか。マズいことになった。魔物の襲撃だ」


 そう言って、壁にかけられたスクリーンに映像が映し出される。

 これは最近、僕が提供した【通信コンムーニカティオー】魔導具によるもの。

 要は防犯カメラを魔導具で再現したものだ。

 通信距離はそこまで長くはないが、街の外縁からここまでなら十分に賄える距離だ。


「うっ…………」


 スクリーンに映し出された光景に僕は思わず息を呑む。

 心臓の鼓動が早くなり、油汗が額に浮かぶ。

 倒れそうになる自分を鼓舞して、睨みつけるように画面を凝視する。


 そこは一面の火の海。

 そして炎の中心には、咆哮を上げて荒ぶる火竜ファイアードレイクの姿があった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


こっちの主人公は弱点があるので、どこぞの常識ハズレの主人公よりは危機に追い込みやすくて楽ですね。


果たして目の前の危機にアルフレッドはどう立ち向かうのか、次回にご期待下さい。


あと、長くなりそうなので章を分けることにしました。

ご了承下さい。



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