第157話 教会咖喱(きょうかいカレー)
突然だが、カレーのスパイス調合はそこまで難しいものではない。
ターメリック、クミン 、コリアンダー 、レッドチリの4種のスパイスが基本で、あとは適当でもそれなりのカレーが出来るのだ。
もちろん、本格的に調合するとなれば精進する必要もあるだろうが、素人でも何とかなる。
前世では、誰にでも愛されるカレーというものの懐の広さには感心したものだった。
それにしても、前世の消防士時代、やたらと健康志向な上司のワガママのせいで、休日を潰してスパイス調合をしたことがまさか異世界で役に立つとは思わなかった。
調合の正解は知っているのだから、あとはこの世界でそれに似た香辛料を探せば、もうカレールーの完成は約束されたようなものだ。
…………そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
いやぁ、似たようなスパイスを探すのがこんなに大変だとは思わなかった。
そもそもこの世界では、まだそこまで香辛料が使われていないため、前世のようにスーパーや通販があるわけでないため、それらを集めるのはすべて人の手に頼ることになるわけだ。
王国全土に販路を広げた【フォティア商会】がなければどうなっていたことやら。
しかも、中には食べ物と認識されていないものもありクミンに似たようなものが、家畜の餌になっていたこともあったくらいだ。
あの香りに僕が気づかなければ、カレーの完成には至らなかっただろう。
ともかく、多くの偶然にも助けられて完成したのが、異世界バージョンの【カレー】だった。
こうして出来上がったカレーを孤児院で振る舞ったところ大好評。
小さな子どもたちが多いので、
治癒師見習いのレナにあっては、三食カレーでも問題ないというジャンキーぶりを発揮してしまった。
そのうちに、噂が噂を呼び孤児院では美味な食事が振る舞われていると聞きつけた者たちが、金を払ってもいいからと孤児院に押し寄せる始末。
そこで試しに、
この結果を受けて、パウロ大司教は満面の笑みで今後もカレーを振る舞うことを決定。
今では【教会カレー】としてこの甘口カレーは有名となってしまった。
ここまで評判となるとアグニスの他の店も黙っていない。
何とかして、カレー粉を入手しようと暗躍が始まり、何かの折に流出したカレー粉の末端価格が銀貨一枚までにも高騰することになってしまった。
人々に喜んでもらおうと作ったカレー粉が、前世のいけない粉のような扱いになってしまったことに驚いた僕は、慌ててロイドが任されたフォティア商会のアグニス支店で販売することにした。
すると、街の内外からカレー粉を求める客が溢れ、爆発的な売上げを記録したのであった。
さすがはカレー、異世界でも人々の心を鷲掴みにしてしまった。
「さすがです、オーナー!カレー粉の素晴らしさと言ったら、もう驚きのひとことです。作った先から売れていきます」
若手ではありながら、アグニスの支店を任されたロイドは満面の笑みでそう報告を寄こしたものだ。
「本店やマーガレット枢機卿からも早くカレー粉を寄こせって連絡が来てますし、もっともっと人手を増やさないと、とうてい需要には応じられませんね」
ホクホク顔でそう話すロイド。
アグニス支店では孤児院の子供を雇ってくれているので、営業が好調ならとても良い傾向だ。
僕が渡したレシビは、部外秘として厳重な管理のもとに置かれているらしい。
前世のコーラかよ、とツッコミたくもなるが、ここまでの売上を誇るようだとそれも仕方ないのかも知れない。
アグニスの街の食事処は、いち早くこのカレー粉に飛びつき独自のアレンジを加えることで、他店との差別化を図っている。
そこには、かつてカイウス商会のダンピングによってボロボロにされた面影はない。
今では、ランドさんの
こうして、カレーの街と化したアグニス。
人々の食に対する執着は、以前よりも遥かに強くなったような気がする。
これはとても良い傾向だ。
カイウス商会によって停滞ムードだった街に活気が蘇る。
今日はせっかくの教会のお披露目だ、さらなる活気をもたらそうじゃないか!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
お久しぶりです。
この先の展開で、かなり方針転換がありまして時間がかかってしまいました。
ある程度方向性が決まったので、いつもの更新頻度に戻したいと考えています。
書き終えてなんですが、久々の更新なのにカレーの話しかしてないことに驚きました。
ちなみに、前話のカレー関係の箇所を一部変更しています。
次回は話に動きが出るはずです。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます