第八部 危機一髪(ききいっぱつ)

第156話 大廈高楼(たいかこうろう)

 天を貫くほどの高さを誇る、18もの尖塔がシンボルとも言える勇壮かつ壮大な白磁の大聖堂。


 その堂々たる姿は、訪れた者たちに感動を与えるとともに、たったので完成したという事実をもって、神の奇跡を如実に顕すこととなる。


 前世の【サグラダ・ファミリア】のその大聖堂と周辺の建物群は、言わずと知れた僕とブランが徹夜で築き上げたものだ。

 事前にパウロ大司教や神の杖ケリュケイオンの面々といった教会勢や、そこに住んでいるジュリア孤児たちといった孤児院勢とどんな教会や孤児院があったらいいかを打ち合わせし、どこぞの狼獣人により更地と化したスラムの跡地にそれは建てられたのであった。


 元々僕は芸術的センスが皆無なので、いわゆる建物だけは造るものの、装飾や彫刻といった細かい細工は大司教が領都から連れてきた職人さんたちに丸投げ。

 もっとも、これだけの大きさだ。

 お手本にした【サグラダ・ファミリア】同様に完成までは数百年はかかるであろう。 

 さすがにそのころには死んでるだろうかろ、完成をこの目で見れないのは残念だと思いつつ、何でこんなことになったのだろうと想いを馳せる。


「さて、そろそろ教会の方も進めて貰えませんかな?」


 パウロ大司教に簡単にそう告げられたときの僕は、グスタフからの指名依頼を防災体制の見直し案を徹夜で書き上げたところであった。

 当初からの約束だし、学校へは教師として多くの人員を配してもらっているから断るつもりは無かったが、まさかこのタイミングとは。

 あるいは、徹夜明けのハイテンションな時をわざわざ狙ったのかも知れない。

 ともかく、想像以上にノリノリで新教会の建設案を進めてしまっていたのだ。


 しかも、パウロ大司教は隣りにいるブランに「自分たちの手で創り上げた教会での結婚式……いいですねぇ」だとか「アルフレッド様が携わるともなれば下手なものは作れませんしね」などと煽るもんだから、もう大変なことに。

 おかげで、ヤル気を出したブランが積極的になってしまい、一夜城ならぬ一夜教会群が出来てしまったという訳だ。


 僕よりも魔力が多いブランが、本気になればこんなことは容易いということを再確認したところだ。

 建物の大雑把な造りをブランが、細部を僕が担当することで、異世界版【サグラダ・ファミリア】を完成させるに至ったのだ。


「ホッホッホ……。ふたりの共同作業…………愛が感じられていいですなぁ………」


 ブランを盛り上げる方法を良く知ってるね。


         


 そうして今日、ついに大聖堂や教会群のお披露目となったのである。


 これに関しては、アグニスの街全体がお祭り騒ぎとなってしまった。

 ただでさえ、新しいものに興味を抱きがちな住民たちだ。

 物珍しさに、我も我もと新しく完成した大聖堂に集まって来た。


 見れば、アグニスの領主であるグスタフさんやギルドの関係者たちや、先日開校したばかりの学校の教師陣や生徒たちの姿もある。

 ………………勉強はどうしたのかね?


「うめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「おいしい、おいしい」

「これは、香辛料の宝石箱や~」

「おい、こっちの激辛もイケる!!」

「やっぱりこれだよ、これ〜」

「ミサでもないのに教会カレーが食べられるなんて……」

 

 そして僕らは、来場者に【カレーライス】を振る舞う。

 これは今、アグニスの街を変えようとしている奇跡のメニューだったりする。


 大陸中を股にかけて活動するフォティア商会の流通網を駆使して集めた様々な香辛料と、母方の祖父クリーク侯爵が治める【エアヴァルト領】の港で水揚げされた【米】!

 それによって導かれる美味しさのハーモニー。


 まさに人を狂わせるメニューだ。

 

 カレーの香りに誘われて次々と人々が集まってくる。

 お披露目としては大成功を予想する人の集まりとなったのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


世界一へがんばれ侍ジャパン!!



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