第160話 咄咄怪事(とつとつかいじ)

 高ランク冒険者たちがいないと聞いて愕然とする僕。

 だってしょうがないじゃないか。

 さすがに炎の竜を相手にするのは無理。

 今だって、トラウマで吐きそうになってるってのに……。


 僕が青い顔をして返答に困っていると、グスタフさんは事情を説明してくれた。


 どうやら、大森林の深層に封印されていた名持ちネームドの魔物が復活したために、森林内のバランスが崩れてしまったらしい。

 浅層にまで上位の魔物が出てきていたというのも、その影響だろうとのこと。

 そして、高ランクの冒険者たちはこの名持ちネームドの討伐へと赴いているために不在だと。


「そうですか、以前にカレナリエンさんが手伝わせるって言ってたのは……」

「そうじゃな、名持ちネームドの討伐のことじゃ」 

「で、あの竜はそんな名持ちネームドから逃げてきたヤツなんですね」 

「おそらくはな。そんな訳で、街にいる現有戦力の中で最も期待できるのがお主たちなのじゃ」


 僕らはまだCランクだとか、実は炎にトラウマがあって倒れそうなんですとか、言いたいことはたくさんあったが今はそれどころではないと言葉を飲み込む。

 すると、なかなか結論を出せない僕の代わりにブランが珍しく自己主張をする。


「私が行く」

「えっ?」

「私が倒すから、アルは避難の指示をお願い」

「でも…………」


 僕がそう言い淀んでいると、グスタフさんが不思議そうに尋ねてくる。


「お主には手伝ってもらえんのか?避難誘導は兵士や他の冒険者に任せるが…………。決して嬢ちゃんが頼りないという訳ではないが、安全性や確実性を取るならば……」


 それは当然のことだろう。

 ブランだけでなく、僕も参戦すれば勝利の可能性は高くなるはずだ。

 だが、僕にはそう出来ない事情があるのだ。


「アルは火に恐怖心がある」

「なんじゃと!?」


 すると、ブランはグスタフさんに僕の事情を端的に説明する。


「昔からアルは炎を怖がっている。だから、火の竜ファイアードレイクの相手はムリ」  

「まさか……そんな……」

「申し訳ありません。事実です」 

「辺境伯と言えば……いや、だからあんな噂が出回っていたのか……。すまぬ、余計なことを聞いてしまった。そういうことなら無理強いは出来ぬ。ブラン嬢、厳しい戦いじゃが頼んでも良いか?」

「ん」 

 

 グスタフさんは、僕の事情について考えることをいったん放棄して、目の前の対策へと切り替える。  

 そして、ブランの提案を受け入れるのであった。


「ブラン……、ごめん」 

「大丈夫」 


 僕があまりの情けなさに涙を浮かべていると、ブランがそっと僕の頭を抱え込む。


「ふたりで補って行く約束……だから」

「ごめん……」

「ごめん、じゃないよ」 

「そっか……。ありがと」 

「ん。じゃあ行く」 

「ああ、頼むよ」


 僕は、自分のあまりの情けなさに身をつまされるような感覚で、立ち去るブランの背中を見つめるのだった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


お久しぶりです。

いろいろと思うところがあり、今後の方針を変更することになりました。


ラストまで突っ走る所存ですので、お付き合いいただければ幸いです。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。




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