第4話 親子関係(おやこかんけい)
「いやぁ、悪いコトをしたなぁ。済まなかったな、アル」
部屋中に響き渡る大声で、僕に謝罪しているのが、現シュレーダー家当主、【アーサー・フォン・ヴルカーン=シュレーダー】だ。
燃えるような赤髪と2メートルを越える身長にがっしりした体格。
一見して歴戦の戦士と見まごうばかりの姿だが、その実、王国内で有数の魔術師というのだから世の中は分からない。
だが、彼のその頑強そうな身体にはあちこちに包帯が巻かれており、妻からのOHANASHIがいかに凄惨なものであったかを物語っていた。
「ホントですよ、アナタ。アルにもしものことがあったらどうしていたことか」
「…………いや、ホントにスマン」
僕の中では脳筋オヤジ認定されている父が、頭ふたつ分ほど小さな妻にペコペコしている姿を見ると、先日の仕打ちに対する溜飲が多少は下がる思いだ。
だが、このふたり決して仲が悪いわけではない。
対立派閥だった侯爵家の次女を見初めた辺境伯が、侯爵の無理難題を退けて見事に妻を娶った話は王都でも演劇になるほどのラブストーリーらしい。
「だがなぁ、やはり辺境伯家の嫡男としては火炎魔術に適性がないとなぁ」
「まだそんなことを言っておいでになるのですか。アルにはアルの人生があります。無理ならそれでも良いではありませんか」
「しかし……」
「どうしても火炎魔術が使えない者に当主の座を継がせられないというならば、そのときはそのときで考えればいいコトです」
「だが……」
「ね?」
「うむ……」
「ね?」
「…………おいおい考えることにしよう」
母親の勝ちだな。
このような夫婦の会話を聞かせられつつも、僕は自分の今後について考える。
脳筋辺境伯に見せられたように、この世界には魔法がある。
いまいち魔法と魔術の区別がついていないが、そこら辺は今後に期待だ。
その魔法を扱うための魔力の量というのは、血統による部分が大きいらしい。
だからこそ、貴族は代々、魔力量が多い者どうしで婚姻することで、次代の魔力を高めて来たようだ。
言い方は悪いが、いわゆるサラブレッドのようなものだな。
サラブレッドが良血と良血を掛け合わせてより速い馬を求めてきたように、貴族は代々魔力量を高めてきたといったところか。
となると、僕の魔力量はそこそこはあるのだろうなとちょっぴり期待する。
今後の方針として、とりあえずは自分の能力を高めることで、最低限、身を守ることができるようにはしたい。
そうすれば、火炎魔術が使えないからと辺境伯家を放逐されたとしても何とかやっていけるだろう。
冒険者という職業があるくらいだし、力をつければ食べていくことには困らないはずだ。
最悪のときは、前世の知識を活かして商売でもやろうか。
「アナタが家族を大事に思ってるのは分かりますよ。アルがこのままでは、本人ばかりでなく、親の私までもが辛い日々を送るだろうと心配して下さってると」
「それは当然だ。アルも君も私には大切な宝だ」
「ありがとうございます。でも、私はアルが笑って過ごせるならどんな環境でも大丈夫ですよ。何なら冒険者に戻って生活するのも楽しそうではありませんか」
「そうだな、だが私は愛する人々を守りたいのだ」
「アナタ……」
いつまでも続く夫婦の甘い会話を聞き流しつつ、僕は辺境伯家を放逐されてからの未来予想図を描いていた。
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