第13話 料理教室(りょうりきょうしつ)


「タララッタッタッタッタ〜、タララッタッタッタッタ〜」

「…………?」

「はい。アルフレッドとブランの3分クッキング始まります。ワ〜ッ、拍手〜」

「パチパチパチパチ……って何?」

「僕のことは先生と呼んでください」

「先生?」


 僕は今、ブランと一緒に厨房にやってきた。

 母上にいろいろと尋ねてから、なんやかや準備して数日、ついにこの日を迎えたのであった。


 ブランにはあの日、僕がひとりでいろいろと聞き歩いていた事を責められた。


「アルばっかり楽しいことをしててズルい」


 そう頬を膨らませて上目遣いに怒られたら、誰が逆らえようか。 

 そこで今日は、そんなかわいい幼馴染と新たな調味料を作りにやってきたのだ。


 それはズバリ【マヨネーズ】


 消防士時代、調理当番として鍋を振るった記憶が蘇る。

 当時、やたらと健康志向でワガママな上司がいて、やれ市販のマヨネーズやケチャップは嫌だだの、やれ不味いのは論外だのと散々に注文をつけられていた黒歴史を思いだす。


 その時に、マヨネーズやケチャップはわざわざ手作りしたんだよ。

 まさか、その時の経験が異世界で生かされるなんて誰も思わないだろう。


 ケチャップは、材料が揃わないのでまた後日。

 この世界では、トマトがあまり流通してないようなのだ。

 残念。


 ただし、あるところにはあるようなので、今回の件が成功したら取り寄せてもらうことも考えている。


 まずは、こちらを成功させることが大切だな。


「はい、こちらが母上に【浄化(プルーゴ)】の魔術をかけてもらった生卵です」

「何で浄化魔術?」

「卵には殻に悪いものが付着している可能性があるので、あらかじめキレイにしてもらいました」

「なるほど」

「次に塩を小さじ1杯。油を少々。酢を大さじ2杯準備します」

「はい、先生」 


 3分クッキングごっこをしているうちに、ブランも乗ってきたようだ。


「最初にボールに油以外の材料を入れてよくかき混ぜます」

「はい、先生」


 さすがにハンドミキサーは無いので、泡立て器を用いる。

 ちなみに、この泡立ては辺境伯家お抱えの鍛冶師に頼んで作ってもらったものだ。

 うろ覚えの記憶を頼りに作ってもらったんで、ちょっと形は歪で、かなりの重量があるのだが、力持ちのブランは苦もなく使いこなしている。


「だんだんとまとまりだしたら、少しずつ油を加えます」

「はい、先生」

「ブランくん、どうぞ」

「どうして少しずつなの?」

「良い質問です。水と油は本来は混ざらないのですが、激しく混ぜることで一時的に混ざったようになります。これを乳化と言います」

「乳化?」

「はい。これがマヨネーズ作りには大切です。乳化は水分や油の量によって成否が変わって来ます。ですから、少しずつ油を入れていくことで、確実に乳化させていく必要があるのです」

「おお〜」


 ブランが驚く。


 ゴメン、前世の料理本の受け売りなんだ。

 そんな尊敬するような目で見ないで欲しい。



 そんな罪悪感に包まれつつ、作業は続いて行った。

 やがてボールに入れた材料が、全体的に白っぽくなり、とろみがついてきた。


 そろそろかな……?


 僕がボールの中の弾力性のある液体を小指に着けて味見する。


「あっ、ズルい」


 ブランから抗議の声が上がるも無視。

 自分の身体で、まずは安全性を証明しなきゃならないので。


 味は前世のマヨネーズと遜色ないほどの出来だ。


「よし、完成だ」

「おお〜っ」


 こうして僕は、異世界でマヨネーズを完成させたのであった。

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