第41話 背信棄義(はいしんきぎ)
「いやあ、スゴイ」
僕はクレアと呼ばれた少女の審美眼に感服し、思わず拍手する。
「何よ?」
それに鋭く反応してくるのは、やはりクレアと呼ばれた少女だ。
僕らの周りにいる少年たちのリーダーはクレスだろうが、肝心なことを決めているのはこの少女じゃないだろうか。
「いや、この一瞬で服の良し悪しを見分ける目は素晴らしいなと思ってさ」
「じゃあ、認めるのね?」
「ああ、そこまで言われて黙ってるのも申し訳ないから名乗らせてもらう。アーサー・フォン・ヴルカーン=シュレーダーが嫡子アルフレッドだ。よろしく」
「へっ?」
「アーサー様……?」
「シュシュシュシュ、シュレーダー!?」
「「「「えええええええええ!!!」」」」
素直に名乗ったのに、こんなに驚かれるなんて心外だ。
隣ではブランが両耳をペタンと倒し、その上に手を乗せて耳をふさいでいる。
「……うるさい」
でも、それはそれで可愛らしくてホッコリする。
「きっ、君は辺境伯様の嫡男かい?」
クレスが驚きつつも質問をしてくるので、そのとおりだと答える。
すると一同が膝をついて、アタマを下げようとするので僕は慌てて制止する。
「待った、待った!ストーップ!」
「すとっ……ぷ?」
ああ、こちらで英語は通じなかったと思いつつも、彼らは何となくニュアンスを汲んで、アタマを下げることは止めてくれたみたいだ。
そこで僕は話を続ける。
「僕にそんな礼儀は不要だよ」
「いいえ、そのような訳にはいきません。貴方様は辺境伯様の嫡男なのですから」
クレスが丁寧に反論するが、僕自身は自分をそこまで偉いとは思っていない。
「それは違うよ。まず、偉いのは父さんであって僕じゃない」
「へ?」
突然そんなことを言われても、理解は覚束ないだろうが、こればかりは譲るつもりはない。
「そもそも貴族とは、かつて功績があって叙爵された者のことで、実際に父さんのように領地を治めていたり、国の要職に就いているなら敬ってもらうべきだ。でも、僕はまだ何の功も成していない若輩者だから、まだ敬われるほどじゃない」
そう力説する僕。
「でも、アルは防災対策とかしてる」
なん……だと……?
まさか背後から反論されるとは思わなかったので、思わず振り返ってしまう。
むむむむ……。
ブラン、裏切ったな……。
どうやらブランは、僕が過小評価されることが面白くないらしい。
炎の魔術を使えないからと、今でも心無い者たちに陰口を叩かれることに思うところがあったのだろう。
「ブランさん、それは今言わなくても良いんじゃないかな?」
「何もしてないわけじゃない……よ」
ブランはそう言って聞き入れようとはしない。
「それは別に……」
「やったことはキチンと評価されるべき」
「いや、でもね……」
どちらにも勝利のない不毛な言い合いを続けていると、どこからかクスクスと笑い声がもれる。
どうやら、僕らのやり取りを見ていたクレスたちは肩の力が抜けたようだ。
「…………はいはいはい、それでお貴族様の偉くない息子さんは、何のためにここに来たのよ」
このままでは埒が明かないと思ったのか、クレアと呼ばれた少女が尋ねてくる。
彼女も心なしか、僕らを警戒する雰囲気が薄れたようだ。
そこで僕は、ひとつののことに気づく。
もしや、こうなると見越してブランは茶々を入れたのか?
僕が慌ててブラン振り返ると、彼女は得意気に親指を立て、ウンウンとうなずく。
…………ドヤ顔をしてるが、絶対に結果オーライだったはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます