第135話 特殊部隊(とくしゅぶたい)

 僕が【神の杖ケリュケイオン】の彼女たちに出逢ったのは、辺境伯領都フレイムのスラム街にほど近い寂れた教会であった。


 そこは、領都にある三箇所の教会のうち、唯一孤児を受け入れている場所であった。 

 彼女たちはその孤児院で、肩を寄せ合って生きていた。


 本来ならば他の二教会も孤児の受け入れをするべきなのだが、そちらはなんやかんや理由をつけては補助金だけを受け取っている有様。

 その結果、スラムにクレスたちのような孤児が集まる弊害が生まれていた。


 それでも、微々たる補助金を切り崩しては、できる限りの身寄りのない子供たちを養う司祭のその姿勢に、僕は感動して、何か手伝えることがないかと幾度も教会へと足を運んだものだった。


 そのときの司祭が、現在は枢機卿の地位にあるマーガレット女史。

 そして、今の【神の杖ケリュケイオン】のメンバーは、マーガレットさんから庇護を受けていた少年少女たちになるのだ。


          ★★


 今回同様に教会を取りまく環境を向上させるために、僕は実験と称してマーガレットさんの治癒魔術の効果を高め、卵の浄化やプリンの販売を持ちかけたところ格段に教会の収入が増加した。


 僕は、良かれと思ってしたことだったのだが、その結果として、同じフレイムにある他の教会からの反発を得てしまい、表裏問わず数々の嫌がらせを受けることになることまでは予想できなかった。


 そんな中、ついに恐れていたことが起きてしまう。


 マーガレットさんが、街で布教を行っている最中に暴漢たちに襲われて大怪我を負ってしまったのだ。

 手に手に凶器を持って現れた屈強な男たちが、何も言わずにひたすらマーガレットさんを殴り続ける行為に、その様子をたまたま目撃した領民のひとりは、しばらくの間は悪夢にうなされることになったという。

 それほどまでに凄惨な事件であった。


 領軍が捕えた暴漢たちの話では、襲撃者を差し向けたのは領都の他の教会。

 あえて神の試練を与えるため、とのたまわっていたが、マーガレットさんの教会が上り調子なのが面白くなかったことは明らかであった。


 だが、全ては教会内部のこととして治外法権を主張されてしまったことから、領の法では裁くこともできずに、暴漢たちは保釈されてしまう。


 


 身体全体におびただしいほどの怪我を負い、意識不明だったマーガレットさんを癒やした僕に対して、涙ながらに頼み込んできたのは、レイチェルさんを始めとした孤児院の子供たちだった。


 ――――自分たちに司祭を守れる力を、と。 


 その必死な眼差しに打たれた僕とブランは、レイチェルたち孤児の強化に乗り出すことにしたのだった。

 当時はまだ賦質之卵イースターエッグの概念もなかったころ。

 本人の資質云々は関係なく、中位までの治癒魔術と簡単な攻撃魔術を叩き込んだ。

 また、戦闘技術を教えるために、領軍の地獄の訓練にも参加させた。

 怪我をしても魔術で癒し、身体強化の魔術を用いて戦闘のプロである領軍の訓練に喰らいつく孤児たち。

 そのあまりの痛々しさに、さすがにブランの父親のゲオルクが、もうやめさせるべきではと言い出すほど。


 今になって考えれば、適性関係なくありとあらゆることを教え込んでいたので、非常に非効率的であったし、かなり無茶苦茶なことをしていたはず。

 孤児たちも相当苦しい思いをしたコトだろう。

 それでも彼女たちはそれを歯を食いしばって乗り越えて、悪意をはねつける力を得たのだった。




 やがて、他の教会の祭壇にマーガレットを襲った暴漢たちの生首が置かれる事件が発生する。

 犯人は

 マーガレットさんを襲撃した暴漢たちへの所業であったことから、これが教会関係のゴタゴタだと誰もがすぐに思い浮かぶ。

 二教会の司祭のたちが、必死に領軍の詰所にやって来てマーガレットたちの仕業だと騒ぎ立てるが、取調べを受けたマーガレットさんのひと声でぐうの音も出なくなる。


「全ては神の御心のままに。これは教会内部のこと故に調査不要」


 そして、それから間もなく、他の二教会の司祭たちが次々と姿をくらませてしまう。

 マーガレットさんの手の者に葬られた、否、恐れをなして逃げ出した、と様々な憶測が流れるものの誰もその真実を知る者はいない。

 

 やがて、教会へ敵対する者たちからの刺客をことごとく返り討ちにし、その遺骸を当事者の玄関先へと送り返す悪辣かつ執拗さに、ついには誰もマーガレットさんたちに手を出せなくなっていく。


 こうして、マーガレットさんは他の追従を許さない財力と、敵を寄せ付けない力を武器に、教会内での階位を上げていくことになるのだった。


 今では、マーガレットさんが慈愛に満ちた枢機卿と呼ばれる一方で、その直轄部隊である【神の杖ケリュケイオン】は恐怖の対象として知られることとなっていた。


「言うことを聞かないと【神の杖ケリュケイオン】が来るぞ」


 言うことを聞かない子供に、大人たちがそう脅しつける程に有名になってしまった。


「ねえ、いくらなんでもやり過ぎじゃないかな?」


 あるとき、レイチェルにそう尋ねたことがあった。

 それに対して彼女は、仄暗い笑みを浮かべて答える。


「さすがは聖者様。我々が手を下す罪人ゴミにまで、お優しいことです。ですが、この世は綺麗事だけでは生きていけないのですよ」


★★★★★★★★★★★★★★★


ええ、狂信者の出来上がりです。




拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。


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