第136話 掃討作戦(そうとうさくせん)
その日、アグニスの街に見慣れぬ姿の一団が現れた。
統一された純白のマント姿の男女が十数名ほど。
見る者が見れば、それが高級な仕立てのローブであると気づくだろう。
霜雪蛾【ホワイトモス】の魔糸で織られた透明感のある白さは、着ている者が高貴な者であると言外に告げている。
そして、その一団の先頭に立って道案内をしているのは、アグニスでも名高いAランクの冒険者【潜影】シピであった。
そんな異様な集団を、街の人々は驚きの眼差しで見つめていた。
「おい、あれは何だ……」
「だが、シピ様が案内をしているぞ」
「隣を歩いているのは【獣魔】の嬢ちゃんか?」
「【獣魔】じゃなくて【龍雲】でしょ?ちゃんとした二つ名持ちなんだから、そちらで呼ばないと」
「しかし、あの嬢ちゃんの姿は何だ。あまりにも神々しい……」
「きれいね。まるで聖女様のよう……」
「いやいやいやいやいや、それはどうでも良い。いや、良くはないけど、それよりもあの一団は何なんだよ」
これからいったい何が起きるのか?
街の住人たちは、不安げな表情で一団を見送るのであった。
★★
艶のある黒髪を持つ猫獣人シピが、ニコニコとしながら物々しい一団を率いる少女に話しかける。
「いやぁ、【検使】でありながら【聖女】の肩書も持つなんてスゴいッスね。そう言えば【獣魔】だの【龍雲】だなんて二つ名もあるッスね。ブランちゃん、ホントにアナタは何者なンスか?」
「つ〜ん」
「えっ?」
「…………」
「ちょっ、ちょっと、なんで怒ってるンスか?」
「【アルのお嫁さん】が抜けてる」
「怒るトコはそこなンスかぁ……」
シピが話しかけている少女は、白狼族の少女ブランであった。
アルフレッドたちが自称教会の協力者【ファロ】の悪事を明らかにするのと時を同じくして、彼女たちはスラム街のファロの関係者を一掃すべく向かっているところだった。
本来なら、スラム街への立ち入りは拒まれるところであるが、こと神罰ともなれば話は別。
堂々と制裁を加えることが可能になるのだ。
ゆえに、その一団を率いるブランも今日は聖女としての装いだ。
ローブの下に純白のドレスを着たブランは、自身の人間離れした美しさも相まって、まるで神の使いのような神秘性を醸し出していた。
そんなブランに、気後れすることなく軽々しい口を叩いていたのは、Aランク冒険者のシピであった。
ブランとは、先日のカイウス商会の幹部による悪事を暴いてからの知り合いであった。
「こう見えても、アタシはAランクなンスからね。依頼料なんてクソみたいに高いのに、それすら簡単に支払うし……」
「アルが喜ぶなら端金」
「いやいやいやいや、結構な金額ッスよ」
「アルの笑顔はプライスレス」
「何、言ってやったぜみたいな顔してるンスか……」
そんなとりとめもない会話をしながら歩いていると、ついにスラムの入口にたどり着く。
「中は?」
「抜かりなし。教会への裏切り行為の証拠はキッチリ揃えてるッス。で、スラムの住人のうち、これまで悪事には携わってきて無い者は、全て教会に向かわせてるッス」
「ありがと」
「おっ!?まさかのお礼なんて、ついにブランちゃんもデレたッスか?これがツンデレってやつッスね?アタシは女のコでもイケるッスから……」
「………………殺る?」
シピはついついそんな軽口を叩いてしまう。
冒険者としてAランクに至ったあとの彼女は、以前からの友人ですらよそよそしい態度に変わってしまったことを疎ましく思っていた。
別に被虐趣味はないが、ここ最近で、これほどまで自分をぞんざいに扱ってくれる者など、師匠を始めとした
どことなく気の置けない友人という感じがして、嬉しかったばかりにシピははしゃぎ過ぎてしまったのだ。
自分が浮かれていたと気づいたとき、いつの間にかシピのその腹にはブランの小さな拳が当てられていた。
恐ろしいほどの魔力が込められたその拳は、小ぶりながらも恐ろしいほどの殺傷能力を有していた。
高位の冒険者であるシピですら、死神の大鎌が首すじに当てられていることを幻視する。
「ちょっちょっ、ちょっと待つッス!!『やる』って『殺す』って書く方ッスよね?殺気がダダ漏れッス!死んじゃう!死んじゃうッスよ!!」
「もう役目は終わり。そんな腐った恋愛脳なら死んだ方がマシ?」
「なんで、ちょこっと疑問形なンスかぁぁぁぁぁ?じゃあ……じゃあ、この間、アルフレッドさんが
慌ててシピがアルフレッドの様子をブランに耳打ちする。
どうやら、その内容が嬉しかったようだ。
ブランの白い頬がうっすらと赤くなり、尻尾が大きく揺れる。
(良かったッス。これからのためにも、もっとアルフレッド様の情報を抑えておくッス……)
哀れなアルフレッドは、シピの自己防衛のためだけにプライパシーを丸裸にされてしまうことが決定した瞬間でもあった。
「むふ〜っ!!!」
すると、いきなりやる気に満ち溢れたブラン。
「とっとと終わらせて、アルのところに帰る」
「あちゃ〜、ちょっとやり過ぎたッスかね?」
その様子を見た、シピが思わずつぶやくと、掃討部隊を率いている【
「あ〜、あの状態のときはねえ……」
「あははは…………」
「あははは…………」
そして乾いた笑いを浮かべる【
おそらくは、かつて味わった地獄の日々を思い出したのであろう。
その日、スラム街に
★★★★★★★★★★★★★★★
狂信者たちの活躍?を描こうとしたら、もうひとりアルフレッドの狂信者がいることを忘れてました。
おかけで、わざわざ遠征してきたメンバーの活躍の場がありませんでした(汗)
拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。
みなさまの応援をいただけたら幸いです。
追伸
『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』
『自己評価の低い最強』
の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。
更新は三日後です。
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