第137話 弱者救済(じゃくしゃきゅうさい)
すみません。
更新したつもりになってました。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
スラムの殲滅に向かった一団が、教会へと戻ってきた。
何故かニコニコとご満足気なブランと、疲れきった表情のシピさん。
そして、達観した表情の【
僕はすぐにブランが何かやらかしたと理解する。
「おかえり。どうだった?」
「問題ない」
「やり過ぎたりはしなかったかい?」
「完璧」
そう胸を張るブラン。
むふーっと、鼻息荒くアピールする少女の姿を見て、僕はそんなはずはないだろうなと思っていると、シピさんが僕たちの会話に加わる。
「いやいやいやいや、問題はいっぱいあるッスよね?」
「問題……?」
「何を可愛らしく首を傾げてるンスか?ほら、そこでは、満更でもないって顔をしない!なんスか?アンタらはバカップルなんスか?」
「失礼な。可愛らしいものを愛でて何が悪い」
「だから、アンタがそんなんだから、この子に歯止めが効かないンスよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
どうやら、天下のAランク冒険者でありながら、情緒不安定のようだ。
僕が無詠唱で【
「ハァハァハァハァハァハァ……。お気遣いありがとうッス」
さすがに腕利きだけあって、彼女は自分が何をされたかを理解できたようだ。
「落ち着けました?」
「ええ、何とか……」
「それで、何があったんですか?」
「やり過ぎッスよ!やり過ぎ!縦横無尽に雷を降らせたせいで、あちこちが無茶苦茶ッス」
なんだその程度か。
僕は安心するとブランに微笑みかける。
「ああ、さっきの雷はやっぱりブランだったか」
「ん」
「だから、何でそんなに落ち着いてるンスか?天が落ちてきたかと思ったッスよ!」
「そりゃあスゴイ威力だね」
「感心するところが違うッス!…………おかげで捕えたスラムの連中は気が触れちゃったンスよ。しかも、スラムも更地になっちゃったッス」
「ああ、更地にしてくれたんだ。ありがとう」
「ん」
「このおバカァァァァァァァァ!!」
「何でそんなに興奮するんですか?おおげさですよ。そもそも、最初からあそこは更地にするつもりでしたし、気が触れたって言っても、ここには精神面の治癒にかけては第一人者であるパウロ大司教もいらっしゃる訳ですから問題はありませんよ。あんまりシピさんが沈んでいるので、てっきり僕は、ブランが大量虐殺でもしてしまったのかと勘違いしちゃったじゃないですか」
気が触れてしまっても、ここには僕よりもよりレベルの高い【
まあ、その後には過酷な取調べが待っているのだから、回復しない方が幸せかも知れないけど。
スラムを更地にするのは当初の計画通り。
僕の腹案の一環であると説明して、ちゃんと事前にグスタフさんからも了承は得ていることだ。
どうして、その程度で怒るのか理解できないなぁ。
むしろ僕はその程度のことで済んで、胸を撫で下ろしているのに。
「このバカップル……。ふたりともが規格外なんだと、ようやく分かったッス……」
そう呟いて肩を落とすシピさん。
何故か、かわいそうなものを見つめるような目で見られている。
解せぬ。
すると、いつまでも話が進まない、そんな状況を見かねた【
「聖者様。発言をよろしいでしょうか?」
「シオンさん。お久しぶりです。別に断らなくてもいいですよ……」
「いえ、聖者様には返しきれぬほどの恩があります。私が敬愛するお方には変わりありませんから」
「ですから……」
「それだけは譲れません」
「え〜っ、そこを何とか……」
「ダメです」
「………………あ〜、はい。もうそれでいいですよ」
「ホッホッホ、ついに認められますのかな?」
「パウロ大司教……。認めるのではなくて、もう諦めたと言いますか……」
ため息をつきながら、自分の有り様を受け入れる。
何故かブランか満足そうにうなずいているが、見なかったことにしたい。
「あっ、シオンさん。話の続きをどうぞ」
このままだと、老獪な大司教に外堀を埋められそうなので、慌てて話を逸らす。
「申し訳ありません。私が思ったのは、罪を犯してないスラムの住人をどうなさるおつもりなのかと……」
「ああ、それですか。本当なら考えていたことがあったのですが、せっかく大司教がいらっしゃったので、この教会でも迫害された女性たちの受け入れ所を開こうかと思いまして。そのための手伝いはいくらいても多すぎとはなりませんからね」
「ああ、こちらでも弱い立場の女性たちを保護なされるのですね……」
シオンさんが、胸の前で手をがっちりと組んで、深々と頭を下げる。
「聖者様のお慈悲に感謝します」
僕がやろうと思っているのは、前世で言うところの駆け込み寺。
あるいは女性や子どもたちの保護シェルターだった。
どうしても男尊女卑の感が強いこの世界では、女性が辛い目に合うことが多い。
そして、子どもたちもまた迫害される立場にある。
これまでは、それがこの世の摂理であり、当然のことと思われて来た。
だけど、前世の知識がある僕はそれが許せなかった。
弱い者が非人道的な扱いを受けるのが、許せなかったのだ。
そのために、僕はマーガレット枢機卿にひとつの提案をした。
教会がそんな女性や子どもたちの受け入れ先となるべきではないか、と。
治外法権のある教会が、追い詰められた女性や子どもたちの受け入れ所となれば、害を加える者たちは追いかけては来られない。
仮にやって来たとしても、そこには狂信者たちが手ぐすねを引いて待っている訳だ。
これほど、安全な場所はないだろう。
そうして、弱い立場の者たちが、落ち着き、生きる希望を持ち直したなら、どこかそことは違う新天地を斡旋して第二の人生を送らせればいいのだ。
弱者救済。
それが、金儲けとともにマーガレット枢機卿を言い表すの代名詞となったのだ。
それをこの街でも広めていく。
それがこの教会の新たな活動であった。
★★★★★★★★★★★★★★★
あんまりやることが多いと教会が手狭になりますね。
…………あっ、ちょうどいいところに更地がある!!
拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。
みなさまの応援をいただけたら幸いです。
追伸
『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』
『自己評価の低い最強』
の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。
更新は三日後です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます