第134話 状況説明(じょうきょうせつめい)



「【パウロ】大司教。聖者アルフレッドさま。制圧を完了しました」


 老人と僕に向かって片膝をついてそう報告するのは、金色の髪をひとつにまとめている妙齢の女性。

 今にも折れてしまいそうなほどに、華奢で透明感のある美人だが、その身に纏う鎧は純白で重厚感のある全身鎧フルプレートアーマーであった。

 

「ご苦労さまでした」

「だから、僕は聖者じゃないってば」

「はいはい、そうですね〜」


 僕がそう反論するも、妙齢の女性――――【レイチェル】は聞き入れてくれない。

 しかも、随分と軽く受け流されてしまう。


 解せぬ。


「頼む、許して!許してくれえええええええ!」


 ファロが泣きながらそう叫ぶ。


 すると、それまでの笑顔を消したレイチェルは濃厚な殺気を放ちつつ、男にドスの効いた言葉を投げつける。


「我々は【神の杖ケリュケイオン】。神の名のもとに汝らの罪を暴く者なり。聖者様の御業に仇なすキサマらに、神の慈悲が与えられるとはゆめゆめ思うなかれ」

「ギャァァァァァァァァァァ!!!!」

「許してくれええええ!」

「何でも、何でもするからぁ。助けてくれ」

「お願い、お願いします」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ファロやその取り巻きたちが泣き叫ぶのも無理はない。


 【神の杖ケリュケイオン】と言えば、悪名高い枢機卿直属の特殊部隊のことだ。


 正義を貫くために、何者にも干渉されないほどの実力と、高い治癒魔術能力を併せ持つエリートたち。

 個々の能力はBランクの冒険者を遥かに超え、その主である枢機卿と、何故か崇拝対象に認定されてしまった僕とブランの為ならば、死をも厭わないという狂信者集団でもある。


 要するに、教会側ではファロたちを捕まえるため、ロサンゼルス警察特殊部隊S.W.A.T第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊デルタフォース特殊部隊合同コマンド CO.F.S.を派遣したようなものだ。


「バ……バカな……バカなバカなバカな」

「ああ、ちなみにお前がジジイ呼ばわりしたお方は大司教閣下で、お前がガキ呼ばわりしたお方は聖者様だ。どれだけの不敬かをよく噛みしめろ」

「だから違うって……」

「ホッホッホ、もう諦めなされよ。ブラン様は聖女の称号を受け入れておりますぞ」

「彼女は、僕が認められるのが嬉しいだけで、自分のことはどうでもいい子だからね」


 僕とパウロ大司教がそんな会話をコソコソと交わしていると、さらに大きくなったファロの泣き声に苛ついたレイチェルが、大きく開けたその口に白銀に輝く剣先を刺し入れる。


「ギャァァァァァ…………あっ、あぐっ………」

「少し黙ってくれないか?聖者様のお言葉が聞こえないじゃないか」

「が、あがあがあが…………」

「そうそう、それでいい」


 僕はその様子を見るとドン引きする。


「相変わらずだねえ…………」

「ホッホッホ、こうまでさせたのはどなたの責任かな?」

「え〜っ、それは直属の上司である枢機卿マーガレットさんのせいでしょう」

「いえ、すべては聖者アルフレッド様のおかげです。このように身も心も調教されてしまったのは……」

「ホッホッホ……」


 僕がパウロ大司教にそんな話をしていたら、レイチェルが話に加わった。

 何だよその言い方。

 人聞きの悪い。


 だが、他の【神の杖ケリュケイオン】の面々も、レイチェルの言葉に反論するどころか、当然のことだとばかりに何度もうなずいている。


 おかしい。

 名誉毀損だ。


「それよりも、コイツらの本拠地スラムの方はどうなったの?」 


 このままでは、自分の悪いイメージが流れてしまうと考えた僕は、慌てて話を逸らす。


「そちらは、既に聖女ブラン様の指示のもと、三部隊を派遣しておりますので、制圧も時間の問題かと…………」


 すると、そんな会話を聞いていたファロの取り巻きのひとりが声を荒らげて抗議する。


「おい!スラムには、立ち入らない協約のはずだ!ギャァァァァァ!」


 だが、そんな勇ましい言葉も、その背後に立っていた【神の杖ケリュケイオン】のひとりが、男を斬りつけることで止めさせる。


「【ヨシュア】、落ち着きなさい」

「申し訳ありません」

「ちゃんと癒やしておくのよ」

「はっ」


 レイチェルがそう告げると、ヨシュアと呼ばれた男は詠唱短縮した【治癒(サナーレ)】で斬られた男を完全に癒す。


 それを見て、おおっ、まだ神の使徒としての良識があったと感動する僕。


「そうそう、ちゃんと癒やさないと壊すことが出来ないものね」

「…………はい?」

「あと、両手両足を斬った者たちも、もきちんと元に戻しておきなさい。がないとつまらないでしょ?」

「えええええええええええええええええ!?」

 そう言って、妖艶に笑うレイチェルを僕は驚きの目で見つめるのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★


ええ、狂信者集団ですが、何か?

汚れ仕事から、殲滅まで多岐に渡って動く集団です。

次回で、狂信者たちとの出会いについて触れるつもりです。




拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。


 

 

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