第133話 天罰覿面(てんばつてきめん)

 僕が調べたところ、ファロという男は裏街の権力者のようだ。

 どこの街にも、いわゆるスラム街のような場所が存在する。

 それは、街のくくりでは生きていけないはみ出し者や生活困窮者たちの行き着く先。

 領都では僕とブラン……否、仮面騎士が大暴れして壊滅させたが、このアグニスにはまだその悪しき面が残っていた。

 特にアグニスは冒険者の街という側面があるため、冒険者崩れの者たちやギルドから追放されたような者たちが多数所属しており、なかなかアグニスの兵士たちだけでは対処できずにいた。


 そんなスラムで大きな勢力を持っているのがファロだった。


 どこから聞きつけてきたのか、先任の神父が亡くなったのを機に、ファロは教会に現れて様々に介入を行ったのだった。

 神父からの委任状があると言い張って、修道女シスタージュリアから自分が補助金をする言質を取って、それらを着服する。

 その後は、孤児院の子供らを生かさず殺さずにする程度まで支払いを絞る。

 あとは、適当に理由をつけては、ジュリアたちからの要請は一切受け付けていなかった。


 この日、客の前で威圧的な態度マウントを取ったのは、その場にいる面々に自分の意見を通りやすくさせるためだろう。

 前世でいうところの反社会的勢力の者たちが、よくやる手段だった。

 要は、最初にガツンとやって、反抗の意志を挫くのが目的なのだ。


(教会が改装されたっちゅうのはホンマやったな。けど、誰が金を出したんか調べても分からん。なら、無理押しするだけや)


 おそらくは、その程度のことを考えてはほくそ笑んでいたのだろう。


 それは、嘘も何度も重ねて、無理やり事実にしてしまう悪辣な手法。

 本来であれば、そんなことは決してあり得ないが、そこに暴力が加わると前提条件が覆る。

 道理すら曲げてしまうのだから、力なき民は泣く泣く膝を屈する他ない。


 ならば当事者である僕が名乗り出れば。

 あるいはコイツらを僕が叩きのめせば。 


 そんな考えも一瞬頭を過るが、ことは教会内部のこと。

 治外法権の不文律の前には、僕は無力であった。

 

「まずは、このジジイ共を外に叩き出せや」

「そんなことは許さん」

「やかましいわ、護衛風情が口出すなや。なぁ、姉ちゃん。こいつらを外に出したら、ワテと仲良うお話ししましょうや。それにしても姉ちゃん、身綺麗にしたら随分と見れる姿になるもんやなぁ……。なあに、すぐに金を出せとは言わんさかい安心せえ。もっとも、多少はワテのことを慰めてもらう必要があるかも知れんがな……」


 そう言って、好色そうな目でジュリアの姿を舐めるように見つめるファロ。

 このまま二人きりにさせたら何をされるか分からないと、キルトが鼻白む。


「うぐっ」

「キルトさん!!」


 音もなくキルトの背後に回り込んだファロの取り巻きのひとりが、その後頭部に短棒を振り下ろす。

 重い打撃音とともに、キルトは前のめりに倒れてしまう。


「おやおや、役に立たん護衛やな」

「何をするのですか!!」

「はぁ!?邪魔やから眠ってもらっただけやで。後ろから刺さなかっただけでも感謝してもらいたいもんやな」


 そう言って、高笑いするファロ。

 一般人とその筋の者との区分けは、人を害することへのハードルの低さに現れていると言っても過言ではないだろう。


 本来、人は他者を害することに抵抗がある。

 だが、その筋の者は違う。

 軽々とその抵抗を乗り越えてしまうのだ。


 それは職業軍人も同じだが、彼らには軍人としての誇りや使命感がハードル以上の壁となって立ちふさがっているため、早々と他者へ手を出すことはない。

 

 だが、その筋の者は他者を思いやる気持ちも、守るべき立場もないために、あっさりとその力を人に振るうことが出来るのだった。 


「おい、早うソイツらをつまみ出せや」

「「へい」」


 応接間にやってきた5人ほどの男たちが、僕やお客の老人の胸ぐらを掴み上げる。

 キルトにあっては、倒れたまま足を持たれて引きずられていた。


「やれやれ、ここまで傍若無人に動かれては認めるほかありませんな……」

「僕も、まさかここまで力づくだとは思いませんでした。もっと口が上手くやっているのかと思えば……」

「そうですな。単なる暴力に任せるだけとは……。しかし、今日は聞いていたのよりも大勢みたいですな」

「だぶん、最近、教会の羽振りがよくなったと聞いたので、もっと深く介入して金を巻き上げようという魂胆ですかね」

「ああ、何と愚かなことでしょう」

「そうですね」


 僕と老人が、この状況にあっても平気で会話している姿を見たファロは面白くない。

 僕たちが泣きわめいて、見苦しく命乞いをする姿を予想していたはずだ。

 しかも、僕の見込みが的を射ていたのだろう、顔を真っ赤にしては、プルプルと身体を震わせて怒りを爆発させる。


「ごちゃごちゃとうるさいんじゃボケ!」


 ファロが取り押さえられている僕の胸ぐらを掴み上げる。


 ――――その瞬間。


「…………【閃光ルーメン】」


 部屋の中が強い光に包まれて、事前に目をつぶっていた僕と老人以外は恐慌パニックを起こす。


 間をおかずに室内になだれ込んで来たのは、その身に純白で重厚感のある全身鎧フルプレートアーマーを佩びた者たちの一団。


 彼らは時には意識を失うほどに殴りつけ、時には一瞬にして両手両足を切り落とし、次々と室内の男たちを無力していく。

 

 同時に、詠唱短縮された【浄化(パーゲイション)】や【消臭(デ・オドラント)】が僕たちにかけられて、僕たちに飛び散った血糊や、荒れた部屋をキレイにするサービスまで。


「………………ギャァァァァァ!痛い、痛いぃぃぃぃぃ」


 ファロにあっては、両手を切り落とされて無様に床に這いつくばらせられた上に、全身鎧フルプレートアーマーの者にカエルのように踏み潰されている有様。

 痛みで我を忘れて叫んでいる。


 そんな中、殴りつけられて壁際まで吹き飛ばされたひとりの男が、口元の血を拭いながら忌々しげに尋ねる。


「ちっ、聖堂騎士団テンプルナイツかよ」  


 だが、そんな言葉を投げつけられた全身鎧フルプレートアーマーを纏ったひとりの女性は、表情も変えずに淡々と答える。


「勘違いするな。我々は【神の杖ケリュケイオン】だ」



 その言葉を聞いたファロや、その取り巻きたちの顔から一斉に血の気が引く。


「うぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「やめろ!助けて!助けてくれええええええ!!!」

「お願いだ、俺は、俺は関係ない!!この男が勝手にやったことだ!!!」

「アハハハハハハハハハハハハハハハ…………もう、もう終わりだ………………」


 こうして、部屋の中は男たちの阿鼻叫喚の声で包まれるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★


待たせたな。

ざまぁが始まるぜ。




拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。

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