第132話 無理往生(むりおうじょう)
その日、僕が
「失礼するでぇ。おいおい、こりゃあ。ずいぶんとキレイになったもんやなぁ」
他に客がいるにも関わらず、まるで自分が教会の主のように入って来ては、ソファーにどっかりと腰を下ろしたのは人狐族の男。
痩せぎすで人の頭に三角形の耳がチョコンと乗っていた。
切れ長でつり上がった目が、ニヤけつつも部屋の者たちを見定めている。
「【ファロ】さん、今はお客様がいらっしゃってるので…………」
「ああっ!?こんなガキとジジイの方が、この俺よりも大切やと?ジュリアはん、そう言うてんのか?」
恫喝するかのように、ジュリアさんに食って掛かる男の名前はファロと言うようだ。
「別にワテはいつでも手を引いて構わんのやで。わざわざ貴重な時間を割いてまで協力しとる、善良な一市民を教会は蔑ろにする気なんやな?あ゛あ゛っ!?」
ファロは、バンバンとテーブルを乱暴に叩くとジュリアさんに凄む。
「この教会がここまでキレイになったのも、ワテが骨を折ったからやで」
「これは、信心深いお方が……」
「そんな訳あるかい。ワテがわざわざ事前に手配をしてやらせたんや。補助金をやりくりしてやらせただけやから、功を誇るつもりも無かったんで口止めしといただけや」
すごいな、教会がキレイになっていたと見るや、自分の手柄にしちゃったぞ。
どこまで図々しいのやら。
まぁ、わざわざ対外的にアピールして行った改修ではないので、言ったもん勝ちなところはあるけど。
まさか、どうやってキレイにしたかも分からないのに、全て自分の功績にするとは思ってもいなかったよ。
ジュリアさんが、恐る恐る僕の方を盗み見るので、僕は静かに首を振る。
「別に口止めする必要も無かったのでは?ジュリアさんもずいぶんと驚いたみたいですし」
僕はあえてファロにそう尋ねる。
「やかましいわガキ!大人の話に口を出すなや。だいたいワテが来たんやから、お前らはさっさと出ていくべきやろ」
「何故です?先にジュリアさんとお話ししていたのは私たちですが?」
「あ゛あ゛あ゛!?クソ生意気なガキやな!ブッ殺すぞ!ワテはこの教会の大切な協力者や。お前らよりも優遇されるに決まってるやろが!」
その言葉に、護衛として部屋にいたキルトが口を挟む。
「おい、それ以上は聞き捨てならないぞ」
「だぁっとれ、こんガキが!!」
だが、ファロは一切怯むことなくキルトを怒鳴りつける。
「どうやらかなり教会は儲けとるようやな。こんな役に立たん護衛まで傭うなんてな。それなら、これまでワテが自腹で支払っとった分も出してもらわなあかんなぁ」
「……は?」
「いや、な〜に簡単なことや。今まで、貰っとった補助金だけでは賄いきれなかったんで、これまではワテが自腹を切っとったんや。その分も耳を揃えて返してもらおうかい」
「まあまあ、急にそんなことをおっしゃられても、こちらのお嬢さんも判断がつかないでしょう。ここは、いったん時間をおいて話し合いの場を設けられてはいかがでしょうか?」
先ほどまで僕とジュリアさんが話をしていた老人が、場を収めようと妥協案を提示する。
――――が、ファロは聞き入れない。
「黙れやジジイ!余計なコトぬかすな!ワテの言葉が絶対や。何でお前の指示に従う必要がある」
テーブルを蹴りつけて、荒々しく立ち上がったファロはおもむろに指笛を吹く。
すると、わらわらと大勢の男たちが応接間へとやって来る。
「ひっ!?」
「ジュリア、僕の後ろへ」
ジュリアさんが、乱入者に驚くとキルトが彼女の身を守るために、その身を男たちに晒す。
入って来た男たちは一見してその筋の者と分かる風貌で、誰も彼もがいい図体をしている。
「連れてきて正解やったなぁ。キッチリと払うもんは払ってもらいましょうか」
ファロはジュリアさんを見つめると、勝ち誇ったようにそう告げるのであった。
★★★★★★★★★★★★★★
あけましておめでとうございます。
本年もご愛顧のほどよろしくお願いします。
新年早々、胸糞ですがこの先の展開ためにもご甘受願います。
拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。
みなさまの応援をいただけたら幸いです。
追伸
『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』
『自己評価の低い最強』
の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。
更新は三日後です。
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