第131話 新兵訓練(ブートキャンプ)

 マーガレット枢機卿との会談から早2週間。

 

 今日も僕とブランは、教会の庭先で【蒼穹の金竜】の面々を鍛え上げていた。


 以前よりも変わってきたのは、そこに【反逆の隻眼】の一同も加わるようになったこと。


「【ゴメス】さんたちも、『自分たちばかりだけでなく、いろいろな手練れに学ぶ機会があるなら、土下座しても教えを請え』って勧めてくれたんで……」


 そう言って、空いている時間に手合わせを求めて来たのは【反逆の隻眼】のリーダーであるルルであった。

 彼らは中級冒険者である【豊穣の大地】に教えを受けている立場であるが、そんな指導まで受けているとは驚いた。

 てっきり、彼らの指導者はすぐに手が出る粗暴な冒険者だと思っていたのだが、想像以上に優秀な連中だったようだ。

 確かに、これから先にどんなことがあるか分からないのが冒険者という人種だ。

 突発時にどんな対応を取るか、そのときにより多くの引き出しがある方が当然のように生存の確率が高まる。

 得てして、自分たちの教えが絶対だと意固地になりがちなものだが、良いものは良いと素直に判断できるのは優れている証だ。


 もっとも、指導者である【豊穣の大地】が優秀なのか、そんな彼らをきちんと指導したランドさんたちが秀抜なのか、はたまた、しっかりと古き伝統を引き継いだ父さんたちが見事なのか。


 いろいろと、考えさせられることだ。


 それに引き換え、もう一組の【輝道の戦士】ときたら、初日で落とし穴に叩き落して以降、一切僕らに関わって来ることが無かった。

 なんでも、指導を受けている先達の冒険者たちから、『余計なことを学ぶ必要はない』と言われているとか。

 大丈夫なのかなぁ……。

 手合わせしたときも、状況把握すら出来ていなかったレベルだったのに。


 心配ではあるが、そもそも指導者の命令は絶対だろうからな……。


 僕はますますを持って今進めている腹案を軌道に乗せなければならないと、決意を改めるのであった。



「うぎゃぁ!」


 目の前で【反逆の隻眼】の剣士スザクが、ブランに蹴り飛ばされて地面をゴロゴロと転がっていく。


「はい、終了。整列」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」


 僕がパンパンと手を叩いて、庭先で蹲っている一同を整列させる。

 今回は【蒼穹の金竜】と【反逆の隻眼】の2パーティー8名がかりでブランに勝負を挑んだのだが、今回もブランに一太刀を入れることも能わず、逆に全員がバテバテで足腰立たなくなるほどの指導を受けていた。


 だが、さすがに彼らももう慣れたもので、僕が指示をすると慌てて立ち上がって整列する。

 すぐに反応出来ないと、ブランの新兵訓練ブートキャンプが始まっちゃうからねぇ。


 隣ではブランが腕組みしながら、うんうんとうなずいている。

 どうやら、今回は及第点みたいだよ。


 こうして僕は、彼らの動きを見ていて気づいたことをひとりひとりに指導していく。


 戦っている立場からの視点と、傍からの視点ではやはり見え方が違うので、彼らの技術向上には役立っているはずだ。

 実際に、ここ数日の動きは良くなって来ている。

 もう、浅い層であれば、彼らだけで討伐依頼をこなせるのではないか。


 ただ、現在の森の中は浅層に中層の魔物が出てきておかしなことになっているので、少なくとも中層の魔物に出会って逃げられるだけの能力がないと厳しいかなとは思っている。


 そんなわけで、彼らひとりひとりに耳の痛い指摘を行った僕は解散を告げる。

 だいぶ、厳しいことを言ったのだが、彼ら自身は強くなっているという手応えを感じているのだろう、実際のところ同じくブランに一蹴されるにしても、日に日に立っている時間が長くなって来ている。


 ゆえに、彼らはその瞳の輝きを失うことが無かった。

 よしよし、いい傾向だ。


「あ〜あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!折れてる………………」


 すると、解散した彼らの中から悲しげな叫び声が上がる。

 聞けば、【反逆の隻眼】のスザクが、自身の剣にヒビが入っているのを見つけたようだ。

 そう言えば、最後にブランの蹴りを剣の腹で受けてたなと思い出す。

 とっさに身を守るために動いたのだろうが、さすがに相手が悪すぎる。


 僕はひとつため息をつくと、スザクに声をかける。


「スザク。剣を持って来な。直してやるよ」

「えっ!?兄貴、ホントに!?」


 いつの間にか、【反逆の隻眼】の面々からも兄貴呼びされている僕。

 どうしてこうなった………………。


 スザクは喜色満面で僕の元へ駆け寄ってくる。

 まあ、【再生(レノヴァーチ)】の魔術を使うだけの簡単なお仕事だからね。

 大した手間じゃないし、これくらいはやってやろうかと思っていたのだが…………。


「兄貴、俺の短剣も刃こぼれがすごくて…………」

「アタシの弓もこの辺りの調子が悪いの」

手甲ガントレットの調子が……」

「兄貴、俺の鎧もちょっと……」


 次々と、他のメンバーからも情けない声が上がる。


 しまった。

 彼らの要領の良さを見誤っていた。


「もうヤケだ。全員こっちに来い!全部新品同様にしてやるよ」

「「「「「ヤッタァァァァ!!!」」」」」


 たちまち、少年たちから歓声が上がる。

 こうして僕は、【蒼穹の金竜】と【反逆の隻眼】全員の装備をピカピカにしてやるのだった。


「やっぱりアルはお人よし」


 ………………うるさいよ。



★★★★★★★★★★★★★★


そんなわけで、本年最後の更新となります。

今年は初めて投稿をさせていただき、皆さんの後押しのおかげで、ここまで書いて来ることが出来ました。


来年もよりいっそういい作品をお届けできるように精進して行きますので、今後も変わらぬご愛顧のほどをよろしくお願いします。



それでは皆さん、良い年の瀬をお迎え下さい。




拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。


 


 

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