第130話 驚天動地(きょうてんどうち)

「何よ、これえええええええええ!!!」


 その日、『かがり火ファッケル』のひとり娘であるアリシアの叫び声が辺り一帯に響き渡る。

 少女の記憶に残っている今にも朽ち果てそうなオンボロ教会が、まるで昨日にでも建て直されたかのようなピカピカに。

 そればかりか、粗末な服装だった孤児院の子どもたちの服装までもが新品同様に。


「…………これも、あなた達がやったの?」


 恐る恐る尋ねるアリシアに、何事もなかったかのように頷くブラン。


「アルがやった」

「…………そうよね。あなただって、灰になったものを再生出来るんですものね。アルくんなら、これくらいは……」


 だんだんと、常識という感覚が麻痺してきたアリシア。

 いつしか、このふたりならばこの程度は、と思うようになっていた。


「あっ、ブランのお姉ちゃん。こんにちは」

「ん。こんにちは」

「ブラン姉。こんなに卵を産んだんだぜ!」

「良かった。ちゃんと【浄化(パーゲイション)】をかけてからね」

「分かった!」


 そして、教会の敷地内に入ると、孤児院の子どもたちから声をかけられるブラン。

 その全てが彼女を慕い、尊敬する好意的なものであった。


「ちょっ、ちょっと。なんであなたはこんなに溶け込んでるのよ?」

「ずっと手助けしてた……から?」

「何で疑問形なの?」


 実際のところブラン自身にも、孤児院の面々が自分にここまで好意的な理由が理解できていなかった。

 教会への様々な対応はアルフレッドが行っているため、彼に好意的になるのは分かる。

 それに対して、自分は訓練と称して【蒼穹の金竜】をボコボコにしてるだけなのに、と。  

 

 だが、少女は分かっていない。

 時に暴走しそうになるアルフレッドを、やんわりと制止し、時には厳しく諌めているのは誰なのかと。

 人に騙され、迫害されている孤児院の面々は人を見る目に肥えている。

 そんな彼らだからこそ、いわばアルフレッドの手綱を握っているのは誰かを理解していたのだった。 


 ゆえに、温情を与えてくれる恩人の中に、間違いなくブランは含まれていたのだ。

 

 あこちから届く好意的な挨拶の中、ふたりはずんずんと進んでいく。


 そうしてやってきた治療院にいたのは、教会のシスタージュリアと孤児のレナ。

 そして、最近、護衛として雇われた元冒険者の【キルト】であった。

 栗毛の髪に柔和な笑顔を浮かべた青年は、ジュリアが治癒魔術を使えなくなってしまったきっかけとなった人物だ。

 だが、その青年には失ったはずの片腕が存在していた。


 アルフレッドが欠損部位復元のイメージを見せるために、無償で再生して見せたのだ。

 もちろん、そこにはジュリアのモチベーションを高める意味合いもあったのだが。


 こうして、ジュリアの心残りまでフォローした結果、彼女はみるみるうちにその腕前を向上させていく。


 もとより、孤児院上がりで誰に学んだ訳でもないのに【治癒(サナーレ)】が使えたこと自体が高い素養の現れであった。

 そこに、アルフレッドが能力を向上させるためにありとあらゆる指導を行ったのだから、ゆくゆくは欠損部位の再生まで果たせることができるのではないかと思わせるほどの成長を見せていた。


 ――――ジュリアの治癒魔術の腕が上がった。

 

 そんな噂が冒険者たちに広がり、離れていた客足も教会に戻りつつある。 

 収入も安定し、良いことづくめのように思えてくる。


 だがそれに反して、無用なトラブルも増加していくことになる。


 なんだかんだとイチャモンをつけて支払いを免れようとする者。

 教会など離れて自分たちのパーティーへと引き抜こうとする者。

 治療院にいるのが女ばかりなのをいいことに誘拐を企てる者。


 そういったトラブルから彼女たちを守るために、冒険者を引退したばかりのキルトが雇われたのであった。


 もともと優秀な冒険者だったためにその腕前は十分。

 腕を再生してもらった恩から、アルフレッドには忠誠を誓うほどに心酔している。

 しかも、守るべき相手が好意を抱くジュリアとその妹分ともなれば、キルトのヤル気は天元突破であった。


 もちろん、ジュリアもキルトが側にいることで、これまで以上に張り切っている。 


 全ての者にWin-Winの関係が、この現状であった。



「ブランお姉さま!」

「ブランさん。どうしました?」 


 治療院に入って来たブランの姿を見て、レナは声を弾ませ、ジュリアは問いかける。

 そして、キルトにあっては深々と頭を下げる。

 ちょうど、治療も一段落したようで、室内には三人の他に誰もいなかった。


「アルからの伝言」

「アルフレッドさまから……?」


 そうして、ブランは次々と説明をしていく。


 マヨネーズの定期購入先が、街の酒場『かがり火ファッケル』になったこと。

 その関係で、ここにいるアリシアが頻繁に教会へやって来ることになったこと。

 当座の間、ジュリアとかがり火ファッケルとのとすること。

 そして、王都の大聖堂カテドラルから多大な補助金が下りること。


「…………補助金。しかも大聖堂カテドラルから」


 ジュリアは目まぐるしく変化する環境に、思わず目眩がする。

 それでも、なんとか持ちこたえているのは隣にいるキルトのおかげであろうか。


「アルフレッドさまとは、どれほどまでに尊いお方なのでしょうか……」

「分かればいい」


 ブランは満足そうに頷く。

 アルフレッドの偉大さをまたひとり理解したと、ホクホク顔のブラン。

 だが、その表情の変化は、アルフレッドレベルのブランマニアでなければ気づくこともない。


「あっ、大司教も来るから」

「えっ!?」

「前の神父の代わり」

「えええええええええええええええええっ!?」


 こうして、診療所が混乱の渦に巻き込まれるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★


なかなか話が進まない。

年内には自称協力者を出したいのですが、どうなることやら。



拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。


 


 

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