第129話 高嶺之花(たかねのはな)

 枢機卿との打ち合わせを終えてアグニスへ戻ったアルフレッドとブランのふたり。

 今日は、夜遅くまで談じていたアルフレッドは寝不足のため終日休養と相成った。


 ちなみにブランは、アルフレッドと枢機卿の長い会談中、早々と居眠りをしていたため睡眠時間は十分であった。

 そこで、ブランはアルフレッドが休んでいる間に、細々としたことを終わらせることにしたのだった。


「それにしても、あのマヨネーズってスゴイわね。料理の可能性が広がるわ」

「アルが作ったものだから、当然」

「……ホントにあなたって、アルくんのことになると全部肯定するわよね」

「当然」

「お母さんが言ってたけど、あんまり男の人を甘やかすとつけ上がるみたいだよ」

「アルはそのあたりも弁えてる」

「すごい信頼感ね」

「当然」


 そんな会話を交わすブランと酒場『かがり火ファッケル』のひとり娘アリシア。


 ふたりは今、街外れにある教会に向かっている途中だった。


 先日『かがり火ファッケル』で提供している『ブラッディボアのソテー』をマヨソースで味付けして出したところ、大好評を博したために、店主であるランドは定期的にマヨネーズを購入することを決めたのだった。

 そこでブランは、直接やりとりをさせるために、少しずつマヨネーズの販売を始めたばかりの教会へとアリシアを連れて行くことにしたのだった。

 どのみち、【蒼穹の金竜】を鍛えるために向かわなければならないのだから、ついでにという意味合いもあった。


「それにしても、あなた達っていろんなことに手を出してるわよね…………」


 その道中でアリシアは、心の底から理解できないと言わんばかりにため息をつく。


「冒険者登録してすぐに先輩冒険者を叩きのめしたでしょ?それに、ウチの両親や店を救ってくれたばかりか、元凶の悪徳商人も捕まえた。そのうちに、あっという間にCランクまで昇格。そして今度は、教会のいろいろな問題を改善したですって?何よそれ」


 アリシアがアルフレッドたちの功績を指折り数えるが片手では済みそうにない。


「アルの性分だから仕方ない」 

「まぁ、アルくんは、なんだかんだ言ってお人よしだしね。それでうちの店も助けられたわけだから……」

「アルは、この世界には理不尽なことが多すぎるって言ってたから」

「そうなんだ……。あなた達って、そのうち英雄って呼ばれるのかも知れないわね」

「そう呼ばれるのはアルだけでいい」

「あなただってコンビでしょ」

「私はアルの『お嫁さん』だから」

「あ〜、はいはい。結局は惚気話なのね」

「フフン」


 ブランの尻尾が大きく振れているのを見て、アリシアは素直に敵わないなと白旗を上げる。

 自分がピンチに陥ったときに、颯爽と助けてくれたアルフレッドに、アリシアはほのかな恋心を抱いていた。

 だが、この数日のアルフレッドとブランの関係性を間近で見るにつれ、自分の割り込む隙はないと痛感していた。

 この世界では、いわゆる婚姻には鷹揚なところがあり、一夫多妻あるいはその反対の多夫一妻も認められているが、アルフレッドがわざわざブラン以外の妻も娶るとは思えなかった。


(失恋……なんだろうな)


 そんなブランの背中を見ながら、アリシアは独りごちる。

 それでも、どこかせいせいとしている自分がいることに驚いてもいた。

 

(このふたりのやり取りを見てるだけで、心が温かくなるからだろうな……)


 お互いがまるで自分の半身のように、相手を思いやる姿。

 そんな理想的な関係性を目の当たりにして、自分も幸せな気持ちになってしまうのだから、自分には勝ち目はないとアリシアは諦観するのであった。



★★★★★★★★★★★★★★


更新が遅れました。

申し訳ありません。

なかなか難産でした。

結果、クリスマスに失恋エピソードとはなかなかの鬼畜っぷりでしたね。


とりあえずは、明日も更新したいと考えております。






拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 


 


 

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