第148話 制限時間(タイムリミット)
【反逆の隻眼】のリーダーであるルルは、目の前で繰り広げられていることが信じられなかった。
自分たちが鎧袖一触で敗れた
ひとりひとりの力は弱くても、見事な連携でそれを補っている。
今も蠍の尾を双剣で弾いたソウシが体勢を崩すと、それを補うために拳士のカズキが前面に割り込んで、
ふたりの背後に回り込んだ別な
その間に、ソウシとカズキは体勢を立て直し、再び
「何だよ……これ……」
ルルたち【反逆の隻眼】も時間が空いたときに、アルフレッドやブランに手ほどきを受けて、地面に這いつくばっているので、その訓練の質の高さは理解しているつもりでいた。
この訓練を続けていれば、いつかは強くなるだろうとも思っていた。
それでも、これほどまで自分たちとの力量に差が現れるのかと愕然とするルルであった。
★★
(このままならイケる…………!)
それまでの訓練のほうがよほど辛かったくらいだ。
相手は確かに自分たちよりも格上だが、動きが見えるのだから、いくらでもやりようはあるのだ。
何しろ普段は、兄貴と慕う年下の師匠は
しかも、後で聞いた話によれば、毎日のようにやり合っていた師匠たちのペットである【ぐがね】は【麒麟】で、【しろがね】は【騶虞】だったらしい。
大森林の中でも深層に生きる伝説の神獣だ。
そんな相手に為す術もなくボコボコにされていたことを思えば、この状況はなんとやりやすいことか。
相手の
ゆえに、その動きは拙く読み易い上に、自分たちでも十分に対応できる程度の膂力だ。
そんなことを思いながら、
これは大きなチャンス。
それでも、ソウシたちはそこを追撃しない。
彼らの達成条件は、時間稼ぎであって目の前の相手を倒すことではないのだから。
それは、【蒼穹の金竜】の全員が共通する考えであった。
ゆえに、いくら目の前に勝ちへの道筋が見えたとしても攻撃はしない。
だが、それを良しとしない者がいた。
それが、怪我を癒やして戦いの趨勢を見守っていたルルだった。
明らかな勝機に、思わず身体が動いてしまったのだ。
「おい、そこの隙を見逃すなよ!」
「バカッ!」
ルルは自分の腰のポーチからダガーを取り出すと、隙を見せた
だが、それこそが目の前の敵の罠であった。
「…………!!!」
同時に投擲した直後で無防備になったルル目がけて
魔物はこの停滞する状況を打開するために、あえて自らの隙を見せたのだ。
攻撃してくる相手にカウンターを仕掛けるために。
そして、それは戦線を維持している【蒼穹の金竜】たちにとって致命的な一手であった。
ルルへの反撃という予想外の攻撃を前に、それまで上手く回っていた連携が乱れる。
「クソッ!」
「えっ!?」
ソウシがルルの身体を突き飛ばしたのだ。
「なぁっ!?」
そのためにルルは
だが、その代償として………………。
「ソウシぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ルルの悲鳴が森に響く。
見ればそこには、左肩から先を
鮮血が飛び散る。
左肩を押さえるソウシ。
だが、その様子からもはや戦いを続けることは不可能なことが明らかであった。
それは、この微妙な均衡が崩れた瞬間。
つまりは
この時を逃すまいと、防衛線に空いた穴であるソウシに
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!」
そう叫ぶルルは、己の短慮によって招いてしまったこの現状に後悔する。
どうして余計なことをしてしまったのか。
なぜ、友を信じられなかったのか。
それは本人も自覚しない程度の嫉妬からであった。
同じ時期に冒険者として活動を始めた友が、遥かに高い実力を身につけていたことに対して。
そのために、ルルは
自分が敵のその隙をついたのだ。
まだまだ自分も負けていない、と胸を張りたいがゆえに。
そんなルルは心から奇跡を願う。
神よ、自分はどうなっても構わない。
自分の浅慮から窮地に陥った友を助けてくれと。
だが、結果は変わらない。
完全に動きを止めたソウシに
――――瞬間、
「…………
ソウシが満足げに笑みを浮かべて膝をつくと、その背後には手のひらを
刹那の間に、少年たちの目の前には
「…………兄貴、条件達成ッスよ」
脂汗を流しながらも、得意気にそう語るソウシ。
すでにその左肩は、光に包まれて復元されている途中であった。
「無茶をし過ぎだ」
「でも、治してもらえますしね」
そう答えるソウシに対してひとつため息をついたアルフレッドは、期待した面持ちでこちらを見つめる【蒼穹の金竜】の面々に対して告げるのだった。
「……………………まぁ、良くやった」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
そんな訳で【蒼穹の金竜】たちの奮闘でした。
わざと隙を見せられて、のこのこと攻撃したところをカウンター食らうのは、くがねやしろがねとさんざん繰り返して来たので、彼らには通じませんでした。
そしてついに本命参戦。
いよいよこの戦いも終盤を迎えます。
次回の更新をお待ち下さい。
三日後くらいですかね?
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