第149話 虎尾春氷(こびしゅんぴょう)

 …………本当に驚いた。


 まさか、【蒼穹の金竜】たちがここまで出来るとは思っていなかった。

 チラリとブランに視線を向けると、尻尾が大きく振れている。

 どうやら彼女も、教え子たちの成長に喜んでいるようだ。


 すぐに、蝎獅マンティコアを殲滅できないと判断した僕は、負傷者たちの救護を優先するために、ルルたち【蒼穹の金竜】に時間稼ぎを指示した訳だが、まさかここまでキッチリと時間稼ぎを果たすとは。


 指示をした僕自身が一番驚いている。


 何かあったときのために、ブランが彼らの様子を見てくれていたのだが、手を貸す必要もないくらい見事な連携だった。


 うんうん、毎日のようにブランやぐがね、しろがねにボコボコにされていた成果だね。

 もうね、やられ過ぎて一時期はブランの姿を見るだけで背筋を伸ばしていた連中とは思えないよ。

 ちなみに、僕はそれなりに指導してただけだから怖がられてはいない………………はず。

 …………大丈夫だよね?

 

 そんな訳で、ソウシたちの成長を実感したのだが、さすがに最後のはやり過ぎじゃないかな。


「無茶をし過ぎだ」

「でも、治してもらえますしね」  


 僕が苦言を呈すると、さも当然のようにそう答えるソウシ。

 信頼感が重いよ…………。

 まあ、再生はさせるけどさ。


 僕が【完全治癒(ペルフェクティオ・サナーレ)】を展開しつつ、ルルたちを褒めると満面の笑みでうなずく一同。


 おい、カズキ。

 ガッツポーズはまだ早い。

 戦場だぞ。


 だけど、まぁ。

 ここまでやってもらえたなら、師匠としてもいいところを見せなければならないかな。


 そこで僕はとある魔術を展開する。


「【虎虎婆(ここば)】」


 僕がそうつぶやくと、すぐに冷気をまとった十頭の白虎が現れる。

 その大きさは大人の虎と同じ程度で、身体の全てが氷で出来ている。

 それは、魔術で作り上げた疑似生命体だ。


 これが、【八寒地獄】の第五獄に列する【虎虎婆(ここば)】である。

    

 氷虎の一頭一頭の能力は、動物の虎よりも遥かに高い上に、更なる特殊能力を有している。


「行け!」


 僕がそう命じると、氷の白虎はそれぞれ身近にいる蝎獅マンティコアへと向かっていく。


 ちょこまかと素早い相手ではあるが、白虎たちには及ばない。

 すぐに追いつかれてしまう。


 そして次の瞬間、白虎が爆ぜる。

 大きな音とともに白虎が数多の氷片へと変わる。


 砂埃が晴れると、そこには氷漬けになった蝎獅マンティコアの姿だけが残る。


 虎たちは逃げる相手をどこまで追いかけていく。

 仮に逃げ込まれたり、妨害をされたりしても、ある程度の判断能力を有しているので、そんな障害はものともしない。

 そして、最後には爆発して相手を氷漬けにする。

 

 これが氷虎の特殊能力である。


 いわば、考える【追尾ミサイルホーミングミサイル】だ。 


 あっという間に、生き残っていた蝎獅マンティコアたちが氷像と化す。


「すげぇ……」

「相変わらず、兄貴は異常だよな」

「絶対に有り得ないからね、知能を持った疑似生命体なんて……」

「そこまで規格外なのには、自分は普通の人間ですって顔をしてるのが信じられないよね」

「そうそう、兄貴って何故か普通にこだわるんだよな」

「姉御よりも、あんたの方が異常だっての」

「何でそこを理解してないのかね?」


 ………………聞こえてるぞ。


 ソウシたち弟子の驚く声が聞こえるが、何だろうディスられているとしか思えない。

 後でしっかりとOHANASHIしなくては。


 あちこちから蝎獅マンティコアたちの断末魔の声が聞こえる。

 そして訪れる静寂。


 ゆっくりと周囲を確認すると、蝎獅マンティコアたちは殲滅できたようだ。


 仲間の様子は…………。


 ブランは帰り血ひとつ着いていない。

 あれほど蝎獅マンティコアを狩っていたのに…………。

 うん、圧倒的だな。


 【豊穣の大地】の面々は、あちこち怪我をしているが、生命に別状はないようだ。

 癒やしておこう。

 僕は無詠唱で【治癒(サナーレ)】を展開する。

 何故か僕やブランの様子を見て唖然としているが、そこは問題ない。



 よし、終了だ。


「帰るよ」


 僕は周囲の人々にそう告げると、みんなやりきった顔でうなずく。


 こうして、誰ひとり欠けることなく【軌道の戦士】【反逆の隻眼】の救助を終えるのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


救助が完了。

お仕置きは次回ですかね。



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