第153話 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)

「くぅぅぅ〜、キンキンに冷えてやがる……!!!」

「うめぇぇぇぇぇ!!」

「うおおおおおおおっ、新しい発見だぁ!!」

「ゴクゴク飲めるぞ……」

「ワハハハハハハ!酒がすすむじゃねぇか!」


 酒場のあちこちから、生還祝いに参加した冒険者たちの歓声が上がる。


「おい、【昇龍】の、あんまり余計なことは…………」

「ギャハハハハハハ!何だ何だ、ギルマス!ずいぶんと、弱気じゃねえか!」

「お前らが飲み過ぎなんだよ!」

「仕方ねえじゃねえか!冷やすと麦酒エールはこんなに美味かったなんて知らなかったんだからよ」

「そうだそうだ!」

「違げぇねえ!おい、【氷竜】こっちも頼むわ」


 開始してまだ一時間も経っていないというのに、冒険者たちの一部は既に泥酔状態異常だ。

 というのも、何気に僕が前世を思い出して、知り合いの冒険者たちの麦酒エールをギンギンに冷やしてみたところ、やたらと好評を博してしまったという訳だ。

 冷蔵技術がそこまで進歩していないこの世界では、これまで常温で麦酒エールを飲むのが当然だった。

 だが、僕には前世の記憶があり、麦酒エール…………前世で言うところのビールはギンギンに冷やして飲むものとのイメージがあったことから、つい冷やして飲まないのかと口を滑らせてしまったのだ。


 そうこうしているうちに、いつの間にか僕は麦酒エールの冷やし係になってしまい、いつの間にやら【氷竜】の二つ名まで得てしまったのだった。


「しかし、お前さんらはスゲエな」


 すると、いい感じに出来上がった冒険者のひとりがポツリとそんな言葉を漏らす。


「えっ!?何がですか?」


 思わず僕がそう聞き返すと、その冒険者はしみじみと語る。

 

「無詠唱の魔術を使いこなすほどに能力が高く、こうしていろんな知識も豊富だ。聞けば、教会の方でもいろいろと有名らしいじゃねぇか」

「そこまででもないですよ」

「おいおい、謙遜なんてすんなよ。しかも、あんなカワイイ嫁さんまでいてな。どんだけ順風満帆な人生だよ」

 

 いやいやいやいやいやいや。 


 こちとら、5歳で暗殺されかけた上に、地竜グリーンドラゴンと戦ったり、最近では実の祖父を罪人として訴えたりしてるからね。

 そもそも、前世で焼死した転生者だし。

 これは波乱万丈と言うのではないかな?


 まぁ、確かに、仮面騎士ペルソナエクエスとして好き勝手やったり、商売に手を出したら国内有数の商会になっちゃったりもしてるけど、ジェットコースターのような人生だと思うよ。


 そんなことを考えていると、いつの間にか隣にいたブランが、カワイイ嫁さん呼ばわりした冒険者に山のように料理を取り分けていた。


「…………食べる」

「おいおい、【氷竜】よ、こんなに気がつく嫁さんなんて最高じゃねえか」

「もっと食べる」


 ブランが尻尾を大きく振って、更に山のように料理を盛り付けている。

 もはやその盛り付け方は、芸術の域に達しているな。 


 どうやら、嫁さん呼ばわりにご機嫌なようだ。

 僕は、思わず笑みが溢れる。 


 まぁ、いろいろある人生だけど、こんなに可愛くて頼れる少女と出逢えたという一点だけでも、とても幸せだと言い切れる。


 いるのかどうか分からないけど、神様には感謝したいところだ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


意外と宴会が続く。


まぁ、ちょっとした息抜き回でしたね。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る