第152話 自業自得(じごうじとく)
「今回は、かなり儲けさせてもらった!どこぞの高位冒険者が大枚を叩いてくれたからなぁ」
冒険者ギルドに併設された酒場において、ジョッキを高々と掲げたギルドマスターがそう口上をきる。
するとたちまち、酒場内は大きな笑いに包まれる。
そして、酒場に集まった者たちの好奇な目は、今しがた修練場で新人冒険者に完膚なきまでに叩きのめされた高位冒険者に向けられていた。
その冒険者が、アグニスの冒険者ギルドにおいてはふたりしか存在しない『Aランク』であるシピさんであった。
彼女は、よりにもよって人の生死をかけた賭けにおいて『何人かが犠牲になる』という項目に賭けていたことが判明し、ブランの勘気に触れたのだった。
もちろん、彼女が斥候職で戦闘には向いていないとしても、高ランクの冒険者が、先日冒険者になったばかりの少女に為すすべもなく一方的に殴られ続けた光景は明らかに異様だった。
辺境伯家の家臣の娘として生まれたブランにとっては、死はもっとも近い存在である。
特に父親のゲオルグは、辺境伯領軍の長としていつ生命を失ってもおかしくない立場にある。
そのため、彼女は生命というものの尊さを誰よりも大切にしていた。
だからこそ、そんな生命を賭けのダシにするような行為が彼女には許せなかったのだ。
それでも、それは冒険者としての昔からのやり方で、そこで出し合った金は、万が一命が失われていた場合の葬儀に使われると聞いたことで、彼女の怒りは幾分か治まった。
ところが今度は、高ランク冒険者のシピが本気で賭けに勝ちに来ていたと知り、彼女の怒りが再燃したのであった。
仮にも高位の冒険者が、生還の有無の賭けで一番ありそうなトコロに賭けていたことに苛ついたのだ。
人を導くべき高位の冒険者が、勝ちに行ってどうするんだ、と言いたかったのだろう。
実際、ギルドマスターは一番ありえない全員生還に賭けているが、これが立場ある者の姿であろう。
今回はたまたま大勝ちしたが、彼自身全員生還するては思ってなかったかも知れない。
だが、ギルドマスターという立場から、最良の結末を望むのは当然のこと。
そして、仮に負けたとしてもその金が葬儀に使われるなら本望というわけだ。
それなのに、こちらの方は………………。
僕は、そう思い返すと思わずため息をつく。
「掛けで負けて金はきっちりと巻き上げられるし、ブランちゃんには不謹慎だってボコボコにされるし……」
机に突っ伏している姿に哀れみは感じるが、可哀想だとは思えない。
全ては自業自得だ。
「ってか、マスター!何でこんなに強い子がCランクなんスか!」
「バ〜カ!こちとら、ふたりを一月あまりでCランクまで引き上げたんだぞ!異例の昇格だ!そのせいで、王都の本部からは、ギルドぐるみで何かイカサマしてんじゃねえかって疑いまでもたれてんだ」
「仕方ないッスよ、それは。そもそも、転移魔術を使いこなした上に、
「ああ、だから、文句あるならこっちまで出張ってこいって怒鳴りつけてやったんだ」
「早く、ランクアップさせて下さいよ。じゃないと、いつまでもアタシは、Cランクにボコられたって言われるじゃないッスか〜!」
すると、突然顔を上げたシピさんが、ブランのランクについてものを申す。
すると、それを受けてギルドマスターは、本部との生々しいやり取りを告げる。
うわぁ……、なんか本当に申し訳ない。
それを聞いた僕は引き攣った笑みを浮かべる。
一方でブランはといえば、それが正しいとばかりにうなずいている。
僕としては、あちこちに迷惑をかけない範囲で昇格していきたいとは思っているんだけど、こうなるともう無理だね。
グスタフさん、ご迷惑おかけします。
「【昇龍】も【龍雲】も、どっちもすげぇのは、もうみんな理解してるぞ」
「そうだそうだ。だからボコられても恥じゃねぇぞ」
「まさか、あそこまで一方的だとは思わなかったけどねぇ」
「大丈夫よ、シピちゃん。アタシたちはあなたも十分にすごいことは知ってるから」
「そうですよ!シピさんの本領は潜伏技術じゃないですか!」
「………………気配を消して逃げようとしたけど、あっさりと嬢ちゃんに見つかっていたけどな」
「しかも、最後には治療までしてもらって……。本当に立つ瀬ないなぁ……」
「「ギャハハハハハハハ!!」」
周囲の冒険者たちがシピさんを励まそうとしているが、よく聞けば明らかにブランの凄さを吹聴する形になっている。
当然のことながら、シピさんは傷心から回復出来ない。
「みんなの慰めがかえって辛いッス………………」
その言葉に会場が再び沸く。
ひとりを除いて誰も彼もが笑顔だ。
そして、そのときが訪れる。
「そろそろ、いいか!?お前ら、今日は俺の奢りだ!たっぷりと飲め!それじゃあ、いくぞ!【輝道の戦士】と【反逆の隻眼】の無事生還を祝って………………」
「「「「「「「「「乾杯!!!」」」」」」」」」
酒場に冒険者たちの喜びの声が響く。
こうして、死の淵から生還した新人の生還祝いが開催されたのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
まさか、宴に入れないとは……。
この作者の目をもっても見抜けませんでした(笑)
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