第126話 平身低頭(へいしんていとう)
「「「「申し訳ありませんでしたぁぁ!!!」」」」
今、僕の目の前では【反逆の隻眼】の連中が、土下座している。
当初、手合わせを終えたばかりの彼らは、涙や汗やその他もろもろで、ぐちゃぐちゃの姿だった。
それを、ミクちゃんが覚えたての【浄化(パーゲイション)】で身なりを整えてあげながら、僕たちにいかにお世話になっていたのかをとくとくと語ったようだ。
その結果が、目の前の光景だった。
僕は、そこまでしなくてもいいと言ったのだが、彼らにとっては、自分たちがどれほど無謀で無知だったかを思い知ったらしく、キッチリとケジメをつけたいとのことだった。
「アルの偉大さを理解したならそれでいい」
ウチの相棒がそう断言したので、この件についてはこれで終わりにしよう。
それにしても、と僕は思わずため息をこぼす。
正面から力の差を見せつけられた【反逆の隻眼】は、彼我の実力差をようやく理解して、ミクちゃんの話も聞き入れたが、それすらも理解する間もなく戦線離脱させられた【輝動の戦士】たちは、さんざん僕のことを卑怯だと詰った挙げ句、さっさと自分たちの部屋に籠もってしまった。
まさに前言撤回だな。
暴力で言うことを聞かせるのは間違っていると今でも僕は思っているけど、ある程度の力を示さないと、対話のテーブルに就いてももらえないのだと痛感したのだった。
確かに、こんなに人の生命が軽い世の中じゃ、口先だけで綺麗事を抜かす者の口車に乗ることがいかに危険なことか。
やはり、自分の運命を託すならば、相応の実力がある者の言葉に従うべきというのは当然の帰結なのだろう。
「やっぱり、あの計画を進めるべきだろうな……」
僕はそうつぶやくのであった。
★★
謝罪を受け入れた僕は、食堂に場所を移して【反逆の隻眼】の面々にも夕食を振る舞う。
まさか、こんなに孤児院の子らが食べるとは思わなかったので、いくらか料理も追加することにもした。
「まじゅつをつかったら、またおなか空いちゃった」
そう言って、出来たばかりのポテトサラダを抱え込んでいるミクちゃん。
ほら、【反逆の隻眼】の連中が恨めしそうに見ているから、あの人たちにも分けてあげなさい。
今回は、ブランにも手伝ってもらったので、先程よりもよりスムーズに料理を作り上げることができた。
「うわっ!うめええええ!!」
「美味すぎッス」
「こんなに美味しいの初めて」
「ホントに……美味しい……」
【反逆の隻眼】のリーダーで斥候の【ルル】、剣士の【スザク】、弓士の【カレン】拳士の【ナナリー】が僕たちが作った料理に舌鼓を打つ。
すると、それを見ていた孤児院の子らも、さらに料理に手を伸ばす。
「あんなにおいしそうにたべられたら」
「またおなか空いちゃうよね」
「もう食べられないかもしれないし」
そんな悲しいことを言うな。
もう大丈夫なはず。
ですよね?
僕がジュリアさんに視線を向けると、彼女は真剣な表情で力強く頷いた。
よしよし。
とりあえず、ある程度の恩を売れたと判断した僕は、【反逆の隻眼】の面々に苦言を呈する。
今ならば僕の話も耳に入るだろうから。
「食べながらでいいから、聞いて欲しい……」
そう前置きした僕は、孤児院の冒険者たちが無理をしなくてもいいように孤児院に助力したこと、これからは孤児院だけで収入を得られる目星がついたので無理をする必要がないことを説明する。
「まずは、君たちは周りをよく見る目を持つべきだ。そして、違和感を感じたら立ち止まって考える癖も身につけること」
僕がそう告げると、【反逆の隻眼】ばかりでなく、一緒に話を聞かせていた【蒼穹の金竜】の面々もしっかりと頷く。
「それにしても、ルルくんだっけ?さっきの手合わせでは、よく無詠唱の魔術があると気づけたね」
僕がそう褒めると、頭の上にチョコンとした猫耳がある黒髪の少年は、頬を赤くしながらも嬉しそうに答える。
「ありがとうございます。【ボリス】さん……あっ、今、俺たちが教わってる人なんですけど、その人に斥候は情報が命だって言われて、いろいろと仕入れていたんです。その中に最近冒険者になったばかりの二人組が【ゴリーユ】や【黒竜の牙】をボコボコにしたって話しを聞いて……。そのふたりというのが、ひとりは無詠唱で魔術を使いこなし、ひとりは獣人なのに魔術を使えるって……。だから、最初に無詠唱で明かりを灯したのを見てもしかしたらって……」
「うん、正解。たいしたものだよ」
僕がルルの判断を正しいと認めると、少年は表情を明るくして喜ぶ。
殴りつけて教えるやり方は違うと思うけど、彼らは良い先達に学んでいるのだろうなと感じる。
すると、となりから間抜けな声が上がる。
「ええっ!?兄貴らがゴリーユを叩きのめしたのか?」
それは、【蒼穹の金竜】のカズキ…………ぐがねの角を触って死にかけた男だ。
「カズキ……」
「姉御が魔術を使ってたでしょ」
「そうよ、何で気が付かないのよ……」
同じパーティーの仲間からもため息をつかれる始末。
せっかくなので、僕はカズキにも苦言を呈することにしよう。
「カズキ、お前はもう少し考えて行動しろ。パーティーの切り込み隊長や、ムードメーカーとしてはその性格は最高だろう」
「えっ、そうか。えへへへ」
「話を聞け。だが、あまりにも短慮過ぎる。だからさっきのように仲間を危険に晒すんだ。相手がくがねだったから良かったようなものの、これが逆上して襲いかかってくる魔物だったらどうする?」
「そっ、それは……その……」
「だから、お前は知恵をつけろ。沢山の本を読んで、多くの人と話して知識を蓄えろ。そうすることで、少しは考えてから動けるようになる」
「だっ、だけどよぉ……。本を買う金もねえんだぞ」
「なら、図書館に行け。冒険者カードで貸出も行っている」
「え〜っ、図書館?オレには敷居が高いよ」
「だったら、まずは行くだけ行ってみて、絵本でも借りてこい。そして他の子らに読んでやれ」
「えっ?」
突然の指示に戸惑うカズキ。
だから僕は孤児院の子どもたちを巻き込む。
「なぁ、カズキが絵本を借りてきてくれるってさ」
「「「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「カズ兄、オレは勇者のやつがいい」
「アタシはお姫さまのが」
「まじゅつのお話しもおねがい」
「えっ!?えっ!?えっ!?」
たちまち子どもたちに囲まれて、絵本をせがまれるカズキ。
「でっ、でも兄貴、オレたちだって依頼を受けないと……」
「ああ、大丈夫。お前たちはしばらく孤児院で訓練だ」
「えっ!?」
「基本的なことがまるで出来てないから、まずは連携を取るところから鍛えてやる」
「だって稼がないと……」
「孤児院に金を入れる
「あっ……」
その言葉を聞いて愕然とするカズキ。
「午前中に足腰立たないくらい鍛えてやる。午後は僕たちがギルドに街中の依頼を出しておくから、それをやってもらう」
「でも、そんなにオレたちに付きっきりじゃ……」
「大丈夫。僕とブランなら午後だけでも十分に稼げる。ねっ?」
「ん」
僕がブランにそう話しを振ると、彼女はやる気に満ちた表情で答える。
「ということで、カズキは午後の依頼を受けなくていいから、図書館に通うこと。いいね?」
「「「はい!」」」
「…………ううう。分かったよ」
僕が【蒼穹の金竜】の面々にそう確認すると、カズキを除く三人は背筋を伸ばして返事をする。
さすが、ブランが厳しく仕込んだだけのことはあるね。
「そう言えば……。誰が孤児院にお金を入れる金額を競おうなんて言い出したんだ?最初からみんなで協力すれば良かっただけだろ?」
話が一段落したので、僕はふと思ったことを尋ねる。
そもそも、競わずに最初から協力をしていれば一日にお金を入れる額も安定したり、休みも交代で取れたりといい事ずくめじゃないだろうか。
なのに、何でわざわざ敵対するようなことをしたのだろうか。
すると、その場の視線がひとりに向かう。
その先には…………。
「お前かよ……」
頭を掻きながら照れ笑いを浮かべるカズキの姿が。
「カ〜ズ〜キ〜!!」
「えへっ」
その後、カズキを殴りつけてしまったが、僕は決して悪くないと思う。
★★★★★★★★★★★★★★★
これにてこの章は終わりとなります。
次章からは様々な改革に乗り出します。
冒険してねえじゃねえかとの声もあるかと思いますが、もうしばらくお待ち下さい。
拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。
みなさまの応援をいただけたら幸いです。
追伸
『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』
『自己評価の低い最強』
の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。
更新は三日後です。
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