第七部 構造改革(こうぞうかいかく)

第127話 共存共栄(きょうぞんきょうえい)

 【蒼穹の金竜】の指導にあたって早一週間が過ぎ、ソウシたちも多少は実力の向上が見られるようになってきた。

 

 だが、あまり無理に鍛えすぎるのも身体の負担が大きいので、今日は休日とした。


 そこで僕とブランは、この日を使っていろいろと根回しをすることにした。

 既に、この【アグニス】の街の代官で冒険者ギルドのマスターも兼ねる【グスタフ】さんには、今後の改善計画を承認してもらっているので問題ない。


「それにしても、そこまで教会が食いものにされていたのか……」

「確かに教会は治外法権的なところがありますから、外部の者が気づくのは難しかったコトは思いますね」

「そっちの件は……」

「とりあえず、王都に知り合いがいるので、伝えておきたいと思います」

「何かと手間ばかりかけて済まない。だが、一連の問題が解決した場合には、この街やギルドへの多大なる貢献があったものとして必ず報いることを約束する」


 グスタフさんとはそんな会話を交わしたものだ。

 そして、僕とブランは今、王都の一等地にある王国最大の大聖堂カテドラルにやってきていた。

 ここは、大陸最大の信者を抱える【神聖サンクトゥス教会】のグランシア王国における本山とも呼べる場所。

 ここには、世界に5人しかいない枢機卿のひとりが、責任者に充てられていた。

 その責任者の名は【マーガレット】。

 神聖教会において【財の枢機卿】との異名を持つ妙齢の女性であった。


「それで、私の愛し子たちは、今度はどんな儲け話を持ってきてくれたのかな?」


 満面の笑みで、そう尋ねてくるのが件のマーガレット枢機卿だった。

 年の頃は母さんと同じくらい。

 流れるような金色の髪ときれいな碧眼が特徴的だ。  

 どちらかと言えば、ややふくよかな体型の女性であるものの、決して無駄に太っている訳ではなく、溢れ出る母性を体現するかのような体型であった。

 ぶっちゃけた話をすると、キレイなポッチャリさんという感じだろうか。

 そこに不快感はない。


 僕とブランは、大聖堂の一番上等な部屋に通されて、枢機卿へのお目通りが叶えられた訳だ。


「枢機卿様には、ご機嫌……」  

「ちょっと、やめてよ。私とあなた達の仲でしょ?それを言ったら、私だってシュレーダー辺境伯のご子息にあらせられましては……って言わなきゃならないわよ」 

「アハハ、そうですね。なら、普段どおりで」

「そうよ、あなたに変に畏まられると、背中がゾワゾワするから」


 そんな軽口が叩けるくらい、僕とマーガレット枢機卿の仲は良好だった。


 それもそのはず、かつて、生の卵の危険性を広めてもらったのが、当時領都フレイムで司祭の職にあった彼女だったのだ。

 その見返りに、教えたマヨネーズやプリンのレシピによって教会側は莫大な富を得たのであった。

 その功績によって栄達へのキッカケを掴んだ彼女は、トントン拍子に出世を果たし、今では世界に5人しかいない枢機卿の座に就いていた。


「ブラン、あれを」

「ん」


 そんな彼女に出したのは、アイスクリーム。

 濃厚な卵を用いたそれは、前世の専門店の味にも負けないくらいに仕上がっていた。


「何よこれ!すごく美味しいじゃない!心地よい冷たさを舌で感じたかと思えば、次の瞬間には儚く溶けていく快感。しっかりとした甘さと、食欲を刺激するこの香り。ああ、まさに至高の一品」

「いつも思うんだけど、グルメレポーターなの?」

「グルメ……?」

「美味しい。それだけでいい」

「ブランちゃん。それだけじゃ、せっかく作ってくれた人に報いてるとは言えないわ。どう美味しいのかをしっかり伝えないと……」

「ほんと?」

「いや。僕はブランのそのひとことだけで嬉しくなるよ」

「ふふん……」

「あ〜っ、はいはい。あなた達ふたりの惚気は聞いていられないわ」


 何故かすごくぞんざいに扱われているが、納得がいかんぞ。


「レシピを教えても良いのですが、材料のひとつが大森林でしか取れないんですよね」

「じゃあダメね……。輸送費なんかを考えたら、とんでもない額になっちゃうものね」

「ところが、ここで耳寄りなお話しが。実は僕とブランが冒険者デビューしまして、アグニスの街に常駐してるんです。そして、こんなところに『バニラの実』が」

 

 僕が次元収納から、さやに入ったバニラの実を取り出すと、マーガレット枢機卿蛾飛びつく。


「何が目的なの?」

「とある教会を助けていただけだらと思いまして……」

「やっぱり面倒事を持ってきた……」


 僕が満面の笑みを浮かべると、マーガレット枢機卿は苦々しげな表情でつぶやくのであった。  

 


★★★★★★★★★★★★★★


教会が治外法権なら、偉い人に任せればいいじゃない。

支部のトップに直談判しちゃいました(笑)


ええ、協力者の未来は推して知るべしですね。





拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。


 


 

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