第216話 反転攻勢(はんてんこうせい)

「おっしゃぁぁぁぁぁぁ!!いろいろと良いことを教えてもらったんで、オレたちはこれからそれに報いるために頑張るとするか」


 パウロ大司教との会話を終えたヨルグは、パンッと両頬を叩いて気合いを入れ直すと、老大司教に笑いかける。


「これからどうなさるおつもりで?」

「知れたことよ。今ならアッチの守りは手薄だろうからな」

「おやおや、そこまで考えておられましたか……」

「ケッ、よく言うぜ。もしも、オレたちが動かなかったら、アンタがけしかけるつもりだったろ?」

「それはどうでしょうかね?」

「まぁ、そういうことにしておくさ。ああ、そうだ。アッチからは、こっちで好きにしてもいいだろ?」

「ええ、是非そうして下さい」

「結果として、バザーの売上が落ちちまうが仕方ねえよな?」

「我々の願いは、町の人々が安心して生活出来るようになってくれることですから」

「フフッ。優等生の回答だな」

「それが聖職者というものですよ」

「あと。こんな風にみんなが助けられたのは、アルフレッドくんとブランちゃんのおかげだってのも、キチンと伝えておくことにするさ」

「そうして下さい。その上で、少しでも良いので、我々神聖教のことも喧伝してもらえると助かります」

「ケッ、ちゃっかりしてるな。分かってるよ」


 ふん、と鼻で笑ったヨルグは、承知したことを伝えて老大司教に背中を向けヒラヒラと手を振ってその場を離れる。


 やがて彼は、戦いの後始末をしている仲間たちのもとへとたどり着くと、大音声で命令を下す。


「よお~っしッ!お前らぁ~!とっとと終わらせて次に行くぞ、次ッ!」

「ん?どこに行くのさ?」


 すると、それまで荒くれ者たちにナイフを突き立ててOHANASHIをしていた黒猫族のジジが、仲間たちを代表してヨルグの言葉の真意を尋ねる。


「やることはただひとつ。反転攻勢だ!」


 ヨルグは口元を不敵に歪めると、そう力強く宣言をするのだった。


        ★★


 その夜、サファイラスの町を経済という力で半ば支配していたフィデス商会の倉庫が、何者かに襲撃され、保管されていた品々がひとつ残らず強奪された。

 それは、商会が確保し、高値で売りさばいていたこの町の人々の生活必需品であった。


「なっ、何があったのだ!?」

「倉庫が襲撃されて、中はカラッポです」


 襲撃を伝えて来た従業員に、商会主から留守を任されていたドワンが怒鳴りつける。

 持っていた杖を投げつけられた従業員は、頭を抱えてこれを防ごうとするが無慈悲にも杖の頭が腹に当たる。


 痛みにうずくまる従業員であったが、そんなことには気にも止めずに、ドワンは怒鳴りつける。


「この糞共がぁ!警備は……警備はいったいどうしたというのだ!?あれだけタダ飯を食わせてやった奴らがいただろうに!!」

「そ、それが……、クオン様が教会へ大勢の者を連れて行ってしまい、警備が手薄になっており……」

「バ……バカな……。だったら、クオンを呼べ!何をしているのだと!クオンは?クオンはどうしている!?あの無能が!!」

「そちらは、まだ戻ってきておりません」

「な、な……何時間かかっているのだ!?もうずいぶんと先に出て行ったのではないか?いや、そんな……まさか……」


 そこまで口にして、ドワンはようやくひとつの結論にたどり着く。


「失敗した……?まさか、失敗したというのか……?」


 そう考えなければ、この状況は説明がつかない。


 襲撃を起こす可能性があるとすれば、昨日敵対したばかりのスラムや教会の連中だ。

 そして、そんな奴らを襲撃しに行った者たちが今になっても帰って来ない。 

 ドワンは襲撃の失敗を悟る。


「では……では……では……、こ、これからどうすれば……」


 これまでは生活必需品を独占しているという事実と、圧倒的なまでの暴力で、この町を思うがままに牛耳って来ていた。


 たった今、その構図が崩れた。


「あわわわわわわわわわ…………」


 こうなってしまった以上、その責任は留守を預けられていた自分にある。


「知らなかった……知らなかったんだ……。アイツらに手をだしてはならなかったことを……。だって……、だって……、リー様も知らなかったではないか……、教会のバザーも、襲撃が返り討ちに遭うことも……」


 最悪な未来を予想して、身体が震え、滑舌もままならなくなってきたドワン。


 だが、不幸はそれで終わりではなかった。


「たっ……、大変です!!」


 次に部屋に入って来た他の従業員からの報告を聞いて、ドワンは泡を吹いて卒倒する。


「奪われた商品が、町の獣人どもにタダで配られている模様です!」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


長くなってしまいましたが、ようやく福者編が終了となります。


次章からは、主人公たちと、残された商会がこんなことになっているとはつゆ知らない商会主たちのお話です。


何かを企んでいる商会主。


果たして、アルたちはどうなるのか?


今後も変わらぬお付き合いをお願いします。



モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。





 

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紅蓮の氷雪魔術師 うりぼう @tsu11223344556677889900

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