第117話 賦質之卵(イースターエッグ)

「それじゃあ、理解してもらえたと思うんで、話を続けますね」

 

 ミクちゃんがようやく落ちついたようなので、僕は説明に戻る。

 ようやく、目の前の黒い卵について話が出来そうだ。


 僕の目の前にあるのは、とある魔物の体内にある【黒魔石】と呼ばれるものを卵の形に加工したものだ。

 魔物が持つ魔石は、その色や硬度によって価値が変わるが、【黒】ともなると【虹】に次いで価値が高くなる。

 この卵ひとつで、孤児院の数年分の補助金を賄えるほどだ。


 そして、この魔石に外部から魔力を込めると、その人の魔術のイメージのし易さに応じて、様々な変化が起きることが、僕とプレセア先生との研究で判明していた。


 その後、多くの戦闘員実験台による実証実験を経て、ある程度の法則性を見つけることに成功したのだった。


 これまで「覚える魔術は血統によるもの」との説を、真っ向から否定する結果に僕とプレセア先生は

ほくそ笑むのであった。


 そういった経緯から、黒魔石を用いたイメージのし易さの判定方法が生まれたのであった。


 判定のため、黒魔石に直接力を加えても良かったのだが、魔石が変化した際に怪我をすることもあったので、角を無くすように加工していたら、鶏の卵型が大きすぎず小さすぎず、危険な角もなくちょうど良いことが明らかになったのだ。


 こうして、卵型に加工した黒魔石による魔術イメージの判別方法が完成したのであった。


 ちなみに、様々に変形する卵のその色や形が、前世における復活祭イースターの飾り卵に似ていたことから、僕の独断でこの卵のことを【賦質之卵(イースターエッグ)】と呼んでいた。

 


 そんな感じの説明をしたところ、ポカンとした表情のジュリアさん。 

 レナちゃんやミクちゃんも、先ほどはこの黒い卵を透明にしたにも関わらず、いまいち僕の説明を理解できていない。  


 そこで僕は苦笑いを浮かべつつも、実際にやって見せることにした。


 イメージさえできればどんな魔術でも使えるということは魔術の世界では異端であるため、ここではイメージのし易さを、適性と置き換えて説明している。


「魔術の適性によって、卵は大きく分けて6つの系統に分けられます」


 僕がひとつの賦質之卵イースターエッグに魔力を込めると、卵が青く変色して真っ二つに割れる。


「わぁ、割れちゃった……」

「キレイな青色だね……」


 レナちゃんとミクちゃんは、卵の様子に驚く。


「こんなに簡単に割れるものなのですか?」


 ジュリアさんは、別な卵を指の先で突いているが、そう簡単には割れるものではない。


「これは、魔力の影響で変化したものですから、力ではなかなか割れません。卵が割れるのは【放出系】の魔術に適正があるケースで、【小火イグニス】【小氷グラキエス】といった各種攻撃魔術が覚えやすいです。この色にも何か法則性がありそうなんですが、そこは今後の研究で明らかにするつもりです」


 驚きで二の句が継げないみんな。


 いきなりこんなこと説明されてもねぇ、それは仕方ないよね。

 でも、これからやることに説得力を持たせるためにも必要なこと。

 もうちょっとだけ、聞いていてもらおうか。


 続いて別な卵に魔力を通すと、前世のこんにゃくほどに柔らかくなる。


「うわぁ、ブヨブヨだぁぁぁぁ」 

「いやぁぁぁぁ、気持ちわるい〜」


 レナちゃんとミクちゃんはその卵を手にすると想像以上の柔らかさに騒ぎ出す。


「卵が固くなったり柔らかくなったりするのが【強化系】です。この系統では力を強くしたり、動きを早くする【強化(コンファーム)】という魔術が覚えやすいです」

「はぁ、そうなんですか……」

「獣人は大抵の人がこの適性ですね」


 獣人は無意識で【強化(コンファーム)】を使っている傾向にあるのだから当然なのだが。

 興が乗ってくると、ついつい余計なウンチクを付け加えるのは僕の悪い癖だ。


 そして、これが本番。

 僕が卵に魔力を通して、卵を透明にして見せる。

 それは、レナちゃんとミクちゃんが変化させたものと同じように。


「あっ、レナのといっしよだ!」

「アタシのともいっしょ」  


 するとふたりは、透明な卵を見て大喜びする。


「ジュリアさんもいかがですか?」


 僕はそう言って、言葉を失っているジュリアさんに卵を手渡す。


「えっ!?わ、私がですか?」

「ええ、やってもらうと話が早いです」

「でも……。私がやっても」

「大丈夫です。簡単ですよ、どうぞ」

「シスター、やってみてよ」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

「はっ、はい!」


 レナちゃんとミクちゃんに言われると、どうやらやる気になったようだ。


「そう、卵を握って変われって念じて下さい。それだけで大丈夫です」 


 やや、緊張した表情ではあるが、じっと卵を包み込んだ両手を見つめているジュリアさん。


「卵の色が抜けて透明になるのは【回復系】です」


 そう、説明していると卵に変化が起きたようだ。


「うそ…………」


 そっと両手を開いたジュリアさんは、そこに一点の曇りもなく澄んだ卵があることに驚く。


「この系統の人は治癒魔術……つまり、【治癒(サナーレ)】や【浄化(パーゲイション)】が使えるようになるのです」

「そ、それでは……」


 ジュリアさんは僕の言いたいことを悟ると、はっとして顔を上げる。

 僕はニッコリと笑うと、頷きながら告げるのであった。


「ええ、ふたりはあなたと同じように治癒魔術を使えるようになりますね」


 



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ダラダラ説明しても仕方ないので、残りの3系統は割愛。

残りは特殊過ぎて、殆ど存在しませんので。

いつか機会がありましたら。



こうして、説明が終わりました。

次回からようやく話が動き出します。


三日後をお待ち下さい。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る