第116話 博施済衆(はくしさいしゅう)
「でも、どうしてこのふたりが魔術が使えると分かるのですか?それに私の治癒魔術が上達するとは?」
僕が断言したことで、ジュリアさんは当然のように尋ねてくる。
もちろん、そう聞かれることは想定済み。
「ブラン」
「ん」
僕がブランを促すと、彼女は次元ポーチの中から、2つの卵を取り出した。
それは鶏の卵ほどの大きさだが、よく見れば向こうが見えるほどに透明になっている。
「これは……?」
「それはそこのふたりが変化させた卵ですね。これで」
僕がそう告げると、レナちゃんとミクちゃんが得意気に胸を張る。
「そう、レナがね、かわれ〜ってやったらきれいになったの」
「あのね……わたしがかわってってぎゅっとしたらとうめいになったの」
ふたりともまだ幼いものの、一生懸命に自分がどんなことをしたらこう変化したのかを説明していた。
だが、その意味が分からないジュリアさんはポカンとしている。
そこで僕は、自分の次元収納から卵状のものをいくつか取り出すと説明を始める。
僕が取り出したのは、ブランが持ってきたものと同じ大きさの卵だが、その表面は真っ黒だった。
「この卵で、その人にどんな魔術の素養があるかを知ることが出来るのです」
そう切り出すも、ジュリアさんの反応は鈍い。
いきなりそんなことを言われても、理解など出来ないか。
そう考え直した僕は、まず誰でも魔術は使えることから説明を始めることにした。
「最初に言っておきますが、魔術は誰でもどんな種族でも使うことができます」
「えっ!?でも、そんな話は……」
「聞いたことがありませんね。それでも、これは本当のことなのです。ただ、今は色々と検証中なのでまだ表には出していません。これまでに僕は、何人もの魔術師を育てて来ました」
ブランを始めとして、あとは
ひとつでも魔術が使えれば魔術師だし。
「まさか……」
「そう思われても仕方ありませんが、今はそういうものだと思って下さい。そして、治癒魔術は神の奇跡でも何でもなく、魔術の一種に過ぎません」
「そんなバカな!おお、何と言うことを……。神よ……お赦し下さい」
「なお、この件は王都の【メリエル】枢機卿もご存知です」
「ええっ!?何故そのお名前を!?」
「ちょっとした知り合いです」
「あなたはいったい……」
驚きのあまり、目玉が零れ落ちそうなほどに目を見開いているジュリアさん。
この程度で固まってもらっては困るので、さっさと話を続ける。
「それではひとつお見せしましょう」
論より証拠。
僕はさっきからずっと気になっていたんだよね。
ミクちゃんの右の頬に大きな刀傷があることに。
孤児院にやってくる子供は、それ以前にどんな生活を送っていたのかは分からないが、その傷を見るとロクな環境では無かったのだろう。
僕はミクちゃんの右頬に触れると、あえて魔術の名を口にする。
「【完全治癒(ペルフェクティオ・サナーレ)】」
当然のように、その頬の傷は一瞬にして完治する。
「えっ!?えええええええええええええええ!?」
「うそおおおおおおおお!!」
「…………えっ!?えっ!?え??」
すると、その効果を見たジュリアさんと、レナちゃんが驚きの声を上げる。
そして、当の本人は何が起きたのか理解できていない。
「ねえねえ、レナちゃん、どうしたの?」
「ミクちゃん、ほほのキズがなくなってる」
「……嘘だよね?」
「ホント……」
「これで見てごらん?どうかな?」
僕は小さな鏡を取り出すと、ミクに手渡す。
「ええええええええええええええええ!!」
孤児院にミクの驚きの声が響き渡る。
その後は、ミクに泣きながら感謝されたり、ジュリアさんとレナから質問攻めにされたりと、話が脱線してしまったのは言うまでもない。
「アルは自分がどんなスゴいことをしてるのかをぜんぜん理解してない」
ジト目で睨むブランのひとことが、胸に突き刺さるのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
皆様のおかげで、拙作が週間ファンタジーで98位まで来ることができました。
思い返せば、それなりにフォロワーがいるのに評価が伸び悩んでいた『鶏肋』のような作品でしたが、ようやく日の目を見ることができました。
この喜びを伝えるために、明日も更新します。
ご期待下さいませ。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
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