閑話 黄金週間(ゴールデンウィーク)

「そっか……、もうゴールデンウィークの頃か……」

「ゴールデンウィーク?」


 夜営で火の番をしながら呟いた僕に、となりにいたブランが聞き返す。

 この世界に転生して早11年、もう前世のことを思い出すことも少なくなってきたが、ふとしたことで記憶を呼び覚まされることがある。


 それが、今だった。


 この世界も前世と同様に、1年が12ヶ月に分けられており、今月は【大熊】の月。

 前世で言えば、ちょうど5月にあたるなと、そんなことを考えていたから、ついゴールデンウィークという言葉が口をついて出てしまったのだった。


「それは前世のこと?」

「ん?ああ、そうだよ。今の時期、前世だとゴールデンウィークっていう大型の連休があるんだ」

「…………連休?」


 連休と聞いて首を捻るブラン。


 この世界では、前世のように安息日もなければ土日祝日も存在しない。

 さすがに年に数回ある祭礼の日には休む人たちもいるが、基本的には休みたいときに休むという大雑把なことがまかり通っている。


 もっとも、商会や商店といった客を相手にする商売ではそれもままならず、数ヶ月間休日なしというブラックなところもあるらしい。


 労働基準法もない世の中ではあるが、さすがにそれでは酷いだろうということで、僕がオーナーを勤める【フォティア商会】では、いわゆるシフトをうまく調整して週休2日制の導入に成功している。


 僕がフォティア商会での休みを例に、それが1週間から10日くらい続くことを説明すると、さしものブランも驚く。


「そんなに仕事を休んで食べていけるの?」

「う~ん、僕もあまり詳しくはないんだけど、有給休暇って言って休んでもお金を出す規則があったりするんだ」

「へ~」

「もっとも、僕のような消防士にはそんな休みはなかったんだけどね」

「どうして?」


 最近になって僕の前世の話を聞くのが楽しみになったと話すブランは、こんなさもない話にも興味を持つようになってきた。

 以前は前世の話をすると、前の世界に戻りたいのかと心配されたものだが、ファイアードレイクとの戦いでそれはないと断言したことで安心してくれたようだ。

 それ以来、前世の話を楽しそうに聞いてくるブランがかわいくて、ついついペラペラと語ってしまう。


 うん、仕方ないよね。


「休みだからって現場げんじょうは無くならないからね。かえって、ゴールデンウィークになると交通事故が増えたり、泥酔者が増えたりして忙しくなるんだよ」

「交通事故って、確か『くるま』がぶつかることだよね?」

「そう。馬がいなくても走る馬車みたいなヤツ」

「ふぅん、そうなんだ」


 前にちょっと話しただけなのに、ブランが車について覚えていたことに驚く僕。

 馬が必要ない馬車……うん、確かにそれだけを聞くとインパクトはあるね。


 いずれは、魔術で再現しても面白いかも。

 動力は魔石を使えば何とかなるかな?

 何となくだけど、実用化出来そうな気がしてきたな……。


 そんなとりとめもないことを考えていたら、僕はひとつの案を思いつく。


「そうだ。その護衛任務にも定休日を取り入れてみようか?」

「は?」


 そんな僕の提案に、ブランは眉間にシワを寄せて聞き返す。

 今ですら夜営の警戒を3パーティーで回していっぱいいっぱいなのに、そこから人を外してどうするのかというブランからの圧は感じる。


 でも、僕に言わせればもっとうまくシフトを調整することで、何人かずつ終日休みにしても問題ないはずなんだ。


 そうと決まったら、明日にでも依頼主のロイドに提案してみよう。


 僕がいろいろと案を練り始めた様子を見て、ブランが深くため息をつく。

 こうなった僕は止められないことを理解しているのだろう。

 さすがは、ブランだ。


 僕はニコニコとしながら、明日以降のシフトをどうするか考える。

 こうして、護衛任務への定休日導入という試みが行われることとなったのだった。

 

 ★★★★★★★★★★★★★★★


お久しぶりです。

ゴールデンウィークで思いついて書き始めてしまいました。

終わらなかったので、また明日更新します。



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