第27話 絶体絶命(ぜったいぜつめい)
歩を進める度に全身を痛みが走る。
それでも僕は進めるのを止めない。
エドガーの言っていたことは本当だと確信している。
何故なら、勝つと信じ込んでいたエドガーがわざわざ嘘をつく必要はないからだ。
どうせ僕は死ぬ。
何を言っても外に漏れることはない。
それならとことん悔しがらせて、無念さに顔を歪ませたところを殺してやろうという嗜虐性が垣間見えたからだ。
まあ、そんな舐めプのおかげで僕は九死に一生を得たのだから、僕にとっては幸運だったのだが。
エドガーの口ぶりからはそこまで遠くはないだろうと思っていたが、この傷だらけの身体には思った以上に長い距離だった。
ようやくそれらしきものが見えてきた。
むき出しの山肌に、組んだ木材で補強された高さ3メートルほどの入口だ。
そしてその入口の前にブランとプレセア先生が横たわっていた。
そして、そんなふたりの腹には深々と短剣が刺さっている。
「ブラン!プレセア先生!」
僕がそう叫ぶと、ふたりはゆっくりと僕の方に目を向ける。
良かった息がある。
そう安堵する間もなく冷酷な声が耳に届く。
「【麻痺(オピアム)】」
「うぐっ」
思わずうめき声が漏れるほど不快な感覚が身体を巡り、そのまま受け身も取れずに横倒しになる。
突然のことに理解が追いつかない。
すると誰かがゆっくりと近づいてくる気配がする。
視線だけを気配の方に向けると、そこには僕がよく知る人物
「麻痺をかけていますので、出来ることと言えば、せいぜい声を出せるくらいでしょうか」
「トーマス……そして……」
「ホホホ、みっともないですなエドガー。標的に返り討ちに遭って使命すら果たせないとは……」
「うっ、うるせえ!」
見れば執事服姿のトーマス執事長。
そして、傷だらけのエドガーだった。
「おやおやアルフレッド様、どうしてという顔ですね?それはどちらのことでしょうか?私が裏切っていたことですか?エドガーが生きていたことですか?」
トーマスは普段とは変わらない笑顔ながらも、芝居がかった言い方で説明をする。
「それでは、今度こそ死にゆくアナタに説明してあげましょうか。どうして自分が殺されるのかを」
ブランもプレセア先生も、突然の二人に驚いているが、あわや失血死してもおかしくない状態であるだけに、言葉を発することも出来ずにいる。
「プレセア先生とブラン嬢にあっては、アナタを護衛から引き離すためのエサでした。そうしてさも目撃証言があったかのようにアナタに告げれば、父親の命令を無視し、わざわざ廃坑くんだりまでメイドごときを探しに来て、地竜に殺されたマヌケの出来上がりです」
そしてトーマスは、僕以上に大ケガをしているエドガーを顎で指すと続ける。
「あとそちらの彼は、崖の途中に引っかかってたんですよ。治療薬もないので死にかけですがね」
「……殺す……殺してやる」
エドガーは獣のような目で僕を睨んでいる。
「どうしました?せいぜいいい声で哭いてください」
そんなトーマスの哄笑が響き渡るのであった。
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