第28話 進退両難(しんたいりょうなん)
急に顔に強い衝撃があり、目の前がチカチカする。
「アル!」
ダメだよブラン。
重いケガをしているのに、そんな大きな声を出しちゃ。
コイツがここにいると分かったとき、これくらいはされるだろうと覚悟していたから、まだ大丈夫だよ。
だからブラン、そんな顔をしないで欲しい。
「死ねっ!死ねっ!死ねっ!」
麻痺の魔術を受けた僕は身動きすら取れず、エドガーに何度も何度も蹴られ続けていた。
幸いにもエドガーも身体が痛むのか、そこまで強く蹴れていないということだろうか。
まだ、剣を持ち出さないうちに何とかしないと。
そんなことを考えていると、トーマスの声が耳に入る。
「無能のクセに活きが良いことですな」
「ああ?何だと?おい執事、剣を貸せ。コイツを殺してやる」
「何故、ひと思いに殺してやるのですか?せっかくなので、苦しみ抜いてもらいましょう」
「うるせえ!つべこべ言わずにさっさと出せ!コイツを殺してやるんだ!」
「やれやれ、これだから……」
そう言うと、トーマスは呪文を詠唱する。
「おい。何をしてやがる!」
不穏な空気に慌て出すエドガー。
「【岩塊(サクスム・ランプ)】」
「うぐぉぉぉぉ!」
トーマスが詠唱を終えると空中に大きな岩が現れて、エドガーを廃坑入口まで吹き飛ばす。
「な……何故……」
吹き飛ばされたエドガーは、立ち上がることさえ出来ない。
「そもそも、地竜を呼ぶならそれくらい血の臭いを撒き散らさねばやってきませんよ。大方、アルフレッドの目の前で殺してやろうとか考えて、急所を外していたのでしょう?」
「てっ……テメエ……」
「しかも彼女たちはナイフを引き抜かないから、出血も少ないと来た。これではいつまで経っても地竜は出てきませんよ」
それを聞いて、ブランが以前に僕が話したことを守っていたのだと知る。
ナイフ等で深く刺された場合、そのままにしておいて助けを待つのが正解だと。
急に引き抜けば、ナイフ等で一時的に傷口を蓋していたのが外れて大量出血につながるといったことを話したことがあったのだ。
良かった……。
こんな状況だというのに、そう思ってしまった。
「そっ、そんなのはどうでもいい。おい。早く助けろ!地竜が来ちまうじゃねえか!」
「ええ、そのつもりでお連れしました」
何事もないようにそう答えるトーマス。
「辺境伯の嫡男、腹心の娘、招聘した魔術教師が亡くなるのですよ。誰か犯人が必要じゃないですか」
「ま……まさか」
狼狽するエドガー。
「ええ、そのまさかです。はした金を掴まされて裏切った剣術教師が、嫡男らを地竜のエサにしようとして誤り、自らも犠牲になった。ほら、なんとなくありそうなシナリオだと思いませんか?」
「テメエ!最初から裏切るつもりだったな!」
「おやおや、人聞きの悪い。裏切るなどど。そもそも最初から使い捨てするつもりでしたよ。いつから味方だと勘違いしていたのですか?」
「トォォォォォォォマス!テメエェェ!」
自らが捨て駒だったと知り、罵詈雑言を重ねるエドガー。
だが、死はすぐそばにまで近づいて近づいていた。
最初は微かな大地の揺れ出会ったが、今になればはっきりと感じるほどの大きな揺れとなっていた。
そしてついに現れた死の使い。
体高は廃坑の入口ギリギリほどもある翠緑の竜。
―――地竜【グリーンドラゴン】
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