第五部 作戦会議(さくせんかいぎ)
第93話 密室会議(みっしつかいぎ)
「いやぁ~、スゲ~の見たッスよ」
にこやかに冒険者ギルドのギルドマスターの執務室を訪れた【潜影】シピは、部屋に入るなりそう告げた。
「おう、世話になったな」
部屋の主である【グスタフ・フォン・アグニス】男爵は、豪奢な机に腰掛け、来訪者に片手を上げて労をねぎらう。
「おかえり~♡」
やたら目に痛々しいピンクの装備を身に纏い、見上げるほどの体躯を持つ豹獣人の男……いや、漢こそが、冒険者の頂点であるSランクの【深淵】ミネットである。
はち切れんばかりの筋肉が、小さな装備からはみ出しているが、誰もそれを指摘しない。
「師匠もいたんスか」
「当然よお、あんな規格外がいれば、どこの玉か聞きたくなるじゃない♡」
身をくねらせて、蕩けた顔をしているが、ミネットはまごうことなく男である。
……漢である。
「アーサーくんとアンネマリーちゃんの息子と、ディアナちゃんとゲオルクの娘だよ」
ふかふかのソファーに埋もれるようにして答えたのが【神弓】カレナリエル。
「ちゃッス。カレナ様もいたんスね」
「ちゃッス」
軽い挨拶に同じく軽い挨拶で返すカレナリエルは、ミネットの弟子であるシピとも旧知の仲であった。
「ええ?なあに?ディアナちゃんの娘もいたの?」
その答えを聞いてミネットが驚く。
「可愛らしい子でしたよ」
「そうなの。ゲオルクってあれでしょ。いつもディアナちゃんの後ろをついて回ってた」
「ああ、いつも殴られてた男だね」
カレナリエルが昔を懐かしみつつ答える。
「しかし、見知った冒険者の子供が、もう冒険者になるのか。歳をとったねぇ」
「あらいいじゃない、アナタなんてまだまだ若いんだし。アタシなんてもうお肌が曲がって大変よお」
そんな他愛もない話を遮って、グスタフが問いかける。
「アルフレッド様の無詠唱は見たが、ブラン嬢の腕はどうじゃった?」
「ひとことで言ってバケモノッスよ」
「ほう」
「相手が弱すぎたんで、その実力を測るのは難しいッスけど、身のこなしにもスキはなかったッスね。しかも、魔術を使ってたッス。詠唱短縮で」
「へ?」
「それも凄い威力だったッスよ。アタシも本気で逃げたッスからね」
「……ディアナちゃんの娘なら獣人……よね?」
「そうッス」
「魔術を使ったの?」
「しかも、身を隠す魔術や、燃えた紙を元に戻す魔術ッス」
「なによそれ。アンタ、バカにされたんじゃないの?」
「弟子の目ぐらい信用して下さいよ……」
「まぁ、赤髪の子なんて、アタシの目の前に字義どおり飛んで来たしねえ」
「へえ~、伝説の飛行魔術かぁ。いい拾いものしたね、マスター」
カレナリエルがグスタフを揶揄する。
「バカ言え、天下の辺境伯様の御子息だぞ。何かあったらと思うと胃が痛いわ」
「でも、しっかり面接はしたんでしょ?しかも、今回の件はわざわざ伝えたわけ?」
ミネットが依頼にアルフレッドが割り込んできたことを遠回しに糾弾する。
「すまん、彼らがどう動くか見たかったのもあってな。『かがり火』に行くようには仕向けたが、まさかな」
「で、どう動けば百点だったわけ?」
「む?問題点を理解してギルドに相談することができるかを見たかったのだがな」
「まさか、解決しちゃうとは思わないわよねぇ」
「しかも、検使のメダリオンまで使ったッス」
「これ以上ないほどの対応じゃな。使える手を全て使って解決したわ。まったく、何点やればいいのやら。嬉しい悲鳴だわい」
グスタフは満更でもない表情で、そう答える。
「それに、アルフレッド君は、今回の発端が経済的侵略だってのも気付いてたッスね」
「マジかよ……」
「マジッス」
「確か、辺境伯の嫡男は火炎魔術が使えず、無能だって評判だったわよね」
ミネットがそう呟くと、ギルドマスターの部屋の扉が開いて、ギルドの受付嬢のリリーが入ってくる。
「でも、氷雪魔術は使ってましたね。しかも、あれは八寒地獄でした」
「八寒!?氷雪魔術の最上級魔術じゃない!」
数日前からランドたちの護衛兼監視として任務に就いていたミネットは、前日のアルフレッドたちの大立ち回りを知らないため、その言葉に驚きを隠せない。
「そ、だからボクたちの目的のタメにも早くランクを上げてもらいたくてね」
「アンタ【邪龍】退治に連れて行く気?」
「当たり前だろ。ひとりは無詠唱で八寒地獄を放てるし、もうひとりは近接戦闘も可能な移動砲台だ。こんな強力な逸材、遊ばせとくのは大きな損失じゃないかな」
「……だそうだけど?」
「むう。確かに。じゃが、邪龍は討伐ランクSじゃ。お主たちの推薦とは言っても、せめてBランクはないと許可はできんぞ」
「じゃあ、早くランクを上げなさいよ。面接でも問題なかったんでしょ?」
「まぁな。しかも街の防火対策まで提案して下さったわい」
「ふ~ん」
「ワシが見るに、全てアルフレッド様の影響じゃな。嬢ちゃんも彼の言葉には、従ってたようだしな」
「専属のメイドだからってワケじゃなくて?」
「ああ、それよりももっと強い絆を感じたぞ」
「きっと愛ね。いいわね~♡」
「師匠、すぐにそっち関係に繋げるんスから」
「女のコに恋バナは当然でしょ♡」
「女のコって……」
「……殺すぞ」
ミネットの鋭い視線には百戦錬磨のシピと言えども背筋が凍る。
地雷を踏み抜いたバカ弟子のせいで、ギルドマスターの執務室の空気が重くなるのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
まだだっ!まだやれるっ!
……というわけで、もう少しだけ連続更新を頑張ります。
だんだんとストックがなくなってきたので、一度書き溜めのためにお休みをいただくことになるかと思いますが、何とか今章くらいは終わらせたい……。
モチベーションに繋がりますので、レビューあるいは★での評価をお願いします。
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