第六部 後進育成(こうしんいくせい)
第101話 機嫌気褄(きげんきせい)
どうも、【Dランク】のアルフレッドです。
なんやかんやあって、冒険者登録の翌日に2ランクアップを果たしてしまいました。
そんな、望外な結果にホクホクしながら、僕とブランはランクアップの手続きをしている。
「はい、これでアルフレッドさんと、ブランさんはDランクになりました」
ランクアップの手続きを担当してくれた兎獣人の受付嬢【ルーシィ】さんから鉄のプレートを受け取る。
今までの紙の冒険者証と違って、きちんと名前も刻印されていてありがたみが増した気がする。
ちなみに、Fランクの冒険者証は紙製。
前世で買い物に行くと、いつの間にか財布に溜まっていたお店の会員カードみたいな感じで、もうねありがたみもクソもなかったよ。
まあ、なりたての冒険者なんて、いつ不適格と判断されるんだか分からないんだから、そこまで手間も金もかけてられないってのが正直なところだろうね。
優秀な冒険者なら、さっさとランクアップしちゃうんだろうしね。
そんな訳で、僕らは冒険者として一人前と言われるDランクになった。
「これでお二人は単独で討伐関係の依頼も受けられるようになります」
「単独?」
聞き慣れない言葉に僕は思わず聞き返す。
すると、ルーシィさんは優しく微笑むと説明してくれた。
「お二人はEランクを飛び越えたので経験はなされてないのですが、本来は魔物討伐といったものは先達冒険者と組んで経験するんです」
「ああ、危険が伴うから……」
「そのとおりです。先達から魔物と戦うノウハウを学んで自分の力にして行くわけですね」
「なるほど。でも、そうすると必然的に先達冒険者との繋がりも出来ると。でも、先達と言ってもピンキリですよね」
「はい。ですから、いい先達を見る目を養うのも、冒険者の実力ってことです」
なるほど、こうして新人は先達にいろいろと学んで成長する訳か。
でも、そうなると問題がひとつある。
「悪い先達に捕まったらどうするんですか?」
「そこは企業秘密ですが、決して見捨てることはしませんよ」
そう言って意味ありげに微笑むルーシィさん。
これは、あまり深く踏み込まなくてもいい問題かな?
「分かりました。とりあえずは、ランドさんから出てるブラッディボアの討伐をすることにします」
「ランドさんと言うと『
確かに、腹の肉だけが欲しいのに一頭まるまる買い取るなんて不採算もいいところだ。
改めて、ランドさんたちをそんな窮地に落としたカイウス商会の悪辣さに腹が立つ。
おそらくクレスのところが介入してくれるので街の経済は良化していくだろうから、こんな依頼はゆくゆくは無くなると思われるが、まだ時期尚早なので黙っておく。
そんな世間話をしながら、ルーシィさんは依頼書の束の中から目当ての書類を取り出す。
「あらっ?これはずいぶん依頼失敗の多い案件ですが大丈夫ですか?」
そう心配するルーシィさん。
おそらくは、カイウス商会の奴らが邪魔していたからだろうなとは思いつつも、大丈夫だと返答しておく。
「問題ありません。ね、ブラン?」
「つーん」
僕がそう話を振るも、ブランは頬を膨らませてそっぽを向いている。
僕が王都から帰ってきてからずっとこうだ。
おそらくは、クレアに抱きつかれたことが面白くないのだろう。
不可抗力だったと何度も説明しているのだが、許してもらえない。
「アルは、不可抗力だと言い訳しながらも感触を喜んでいたはず」
あえてどことは言わないところに、ブランの優しさが感じられるが、まるで見てきたような指摘に僕は苦笑いを浮かべるばかりで、それ以上の反論ができなかった。
「あの〜。彼女さんは大丈夫ですか?」
「……彼女?」
ルーシィさんが、ずっと不機嫌なブランの様子を見かねて尋ねると、それまでへニャっとしていたローズの耳がピンと立つ。
どうやら、ルーシィさんの話に食いつたようだ。
頑張ってルーシィさん!
僕は心の中で応援する。
この雰囲気を何とかしてくれ!
僕はそれとなくこれまでの経緯を説明する。
「それは、アルフレッドさんが悪いです」
ん?
「確かに昔からの知り合いとは言え、こんなに可愛い彼女がいるのに、他の女性と抱き合うなんて許せません。不潔です」
んん?
「そもそもですね、冒険者さんってそういった男女関係にずさんな人が多すぎます!いくら明日には死ぬかもしれない危険な仕事だとしても、毎日を刹那的に生きて良いということではないんですよ」
んんん?
「聞いてますか、アルフレッドさん?」
バンと勢いよくテーブルを叩くと、冒険者の生き様に不満でもあるかのように、自分の想いを力説するルーシィさん。
「残された方はいつもヤキモキしてなきゃならないんですか?」
「いえ、違います」
「そうですよ。アルフレッドさんが心配で、こうして一緒に冒険者になってくれた大事な人を悲しませて良いんですか?」
「……良くありません」
「なら、もっと自分を律するべきです。アルフレッドさんほどの方なら、抱きつかれる前に避けることも出来ますよね?」
「……いや、それはちょっと」
「出来ますよね?」
「…………はい」
ルーシィさんの異様な圧力に負けて思わず返事をしてしまう。
「それでは、もう二度と彼女さんを悲しませないようにしっかりしてくださいね」
「…………はい」
もう、何も言えなくなった僕は頷くしかない。
すると、ギルド内の女性冒険者や受付嬢といった女性陣たちから拍手が巻き起こる。
「ルーシィ、よく言った!」
「ほら、リーダー。聞いてるかい?刹那的だとさ。せ・つ・な・て・き」
「そうよね、何で私達が浮気を許さなきゃならないのよ」
「すぐに『俺は未練を残さないために生きる』なんて言ってさ。私らも同じく冒険してるっつーの」
どうやらこの世界の女性たちは同じような苦労をしているようで、共感する声が多数だ。
それに対して、男性陣はみんな苦虫を噛み潰したように顔をしかめている。
「あっ、ありがとうございます。どうも、どうも……」
拍手に応えるルーシィさん。
何があなたにそこまでの不満を抱かせたのかと、聞きたいところだがぐっと堪える。
今、変に藪をつつけば蛇どころか【バジリスク】あたりが出てきかねない。
そんな歓声の中心にいるルーシィさんに、ブランが右手を差し出す。
「……よく言ってくれた。ありがとう」
「ブランさん。お互い、冒険者に苦労する同士。仲良くしましょうね」
「……ん」
何やら意気投合してしまったようだ。
「分かった?」
「はい、ごめんなさい」
「ん」
ブランに問われて素直に謝る僕。
ブランの尻尾がゆっくりと左右に触れている。
まあ、機嫌を直してくれたならそれで良しとしよう。
こうして僕は、いつの間にか貼られてしまった『浮気者』のレッテルを甘んじて受けることにしたのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
待たせたな更新再開だ!
忘れられないうちにね。
しばらくは不定期更新で。
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