閑話 夜間警戒(やかんけいかい)
「やっぱりさ、兄貴の言ったことは正しかったんだよな。俺たちは甘えてたんだよ」
草木も眠る丑三つ時……前世で言うところの午前2時。
寝ず番に就いていた【蒼穹の金竜】のソウシは、焚き火に薪を焚べながらそんなことを語り出す。
静まり返った荒野には、パチパチと火が爆ぜる音だけが響いている。
「ああ、うん……、そうだ……な……」
だが、半分眠気まなこのカズキはろくに話を聞いていなかった。
どこかぼんやりと答える。
「おい、寝るなよ」
「んぁ……?」
「起きろってば!」
「痛ッ!」
僕がシフトの変更を告げて1週間が経ち、当初は嫌々ながら取り組んでいた【蒼穹の金竜】や【反逆の隻眼】の面々も少人数での夜間警戒にも慣れてきたようだ。
今日は【蒼穹の金竜】が6時間を受け持ち、【反逆の隻眼】の2名が残り3時間を受け持つシフトとなっていた。
僕とブランは完全にオフ。
本当ならば、僕は寝袋にくるまって就寝している時間なんだけどね。
僕は今、こうして【
夜と一口に言っても、夜中と深夜と未明に分けられる。
夜中はちょっと夜更かししてる感覚なのでまだ耐えることは出来る。
未明はだんだん日の光が差すので、目が覚めることになる。
しかし、深夜だけ違う。
周囲は暗闇に包まれ、身体も睡眠を求めるため、夜間警戒をする中ではなかなか厳しい時間帯であった。
そして、ソウシとカズキは、そんな最も睡魔に襲われやすい時間帯の警戒を行っていたのだった。
そりゃあ、眠いだろうさ。
でも、そこはしっかりとやりきってもらわないと困る。
「だから、兄貴たちはこうしてひとつひとつ俺たちがやれることを増やしてくれてるんだよ」
ソウシはこれまでの警戒を通して、僕が彼らに何を求めているかを理解しようとしていた。
眠気を紛らわせるのもあるだろうが、ソウシは自らの考えが正しいのか、それを聞いてもらいたくて話を切り出したのだが、当のカズキは眠くてそれどころではないらしい。
うん。
背中に氷の礫を作って上げよう。
僕は遠距離ではあったが、無詠唱で氷の魔術を展開する。
「うっひゃぁぁぁぁぁぁぁあ、冷てえ!!」
フフフフフ……、冷たくて目が覚めただろう。
そんな他愛もないイタズラをしていると、となりの寝袋で寝ていたブランが目を覚ます。
「おはよ」
「どうしたの?まだ朝じゃないけど?」
僕がブランにそう尋ねる。
するとブランは僕だけにしか分からないほどに微かな笑みを浮かべて答える。
「交代。ここからは私が見るよ」
おやおや、ブランには僕が何をしていたかバレていたようだ。
「アルが放っておくはずかないから」
「う~ん、バレないようにしてたつもりなんだけどね」
「寝てないのはバレバレ。私がどれだけ寝顔を見ていると思ってる?」
ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたが、心の安息のためにも知らないフリをしよう。
「え~っ、完璧な寝たふりだったと思ってたんだけどな~」
「とにかくここからは私が見る。こう毎回毎回だとアルが倒れちゃう。【
「うん」
さすがはブラン。
全てお見通しだったようだ。
前世の仕事柄、浅い眠りでも十分に疲れを取ることに慣れていたので、僕はソウシたちに夜間警戒を任せている間、魔術でその様子を見たり、周囲の警戒を行っていたのだった。
まずは、安全に夜を過ごさせて自信をつけさせるべきだと思っていたので、人知れずサポートをしていたのだが、ブランの目は誤魔化せなかったようだ。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「うん」
ブランの気持ちに甘えることにした僕は、素直に横になることにする。
彼女に任せておけば安心だから。
「じゃあ、あとは頼むよ。正直なところ少しだけキツかったからさ」
「おやすみ」
こうして僕は睡魔に誘われて、夢の世界へと落ちていくのだった。
★★
「ンギャァァァァァア!!!」
まだ夜も開けきらぬ中、僕はカズキの悲鳴で飛び起きる。
何かあったと悲鳴のもとへと駆けていくと、腰を抜かしているカズキの目の前には首を切られた魔物が山のように積み重なっていた。
「ブランさん………………?」
こんなことをするのはひとりしかいないと思い、犯人にそう声をかけると、僕の後ろに控えていたブランが悪びれることなく言い訳をする。
「アルが苦労して警戒してるのに、ボケッとしてたから危険性を教えてあげた。こんなに魔物がいたって」
「いやいや、この夜営に近づいて来た魔物じゃないよね」
「私の警戒網の中にはいたよ」
ブランは僕が苦労して警戒のフォローまでしてたのに、こんなにいる魔物に気づかないのはどうしたのだとお怒りのようだ。
でもね………………。
獣人であるブランは人の何倍も周囲の気配に敏感だ。
そして、それは警戒網の広さにも直結する。
多分、この魔物たちはカズキたちには探知出来ないほどに遠くにいたんじゃないだろうかな。
少なくとも、カズキはともかくソウシは緊張感をもって警戒していたはずだ。
その後を引き継ぐカノンとマヤは性格的に居眠りをするような者たちじゃないし。
彼らはそれなりにやれることはやっていたに違いない。
それなのに、ブランと同じように気づかないからって彼らを責めるのはちょっと酷だと思う。
「あ~っと。ブランさん、ブランさん?」
僕は呆気にとられている蒼穹の金竜の面々を尻目に、どうやったらブランを宥められるかを考えるのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
久しぶりに書いたら楽しかったです。
氷雪魔術の大家である北部辺境伯とアルフレッドたちのあれやこれや。
その後の学院入学。
アイデアはあるんですが読みたいですか?
需要がありそうなら連載再開も考えています。
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10件の要望があったら再開してみます。
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