第211話 長目飛耳(ちょうもくひじ)

「ギャギャギャギャ!死ねえええええ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ハッハッハ!そ~ら、逃げろ!逃げろ!」

「ヒヒヒヒヒヒ!け!わめけ!絶望しろ!」


 

 フィデス商会の子飼いの荒くれ者たちは、クオンの命令を受けて一斉に教会へと殺到する。

 教会内にいるであろう関係者をことごとく殺し尽くし、有り余るほどの品々を強奪するために。


 荒くれ者たちの数の暴力の前に、その目的はアッサリと達成されると思われた。





 ―――このときまでは。



 ゴトリ。


 我先にと駆けていた男たちの首が大地に転がった。

 続いて、首をハネられずに済んだ者たちの悲鳴があちこちから上がる。


「うぎゃあああああああああああああ!!」

「ひいいいいい!!足が!オレの足がぁぁ!!」

「痛え!痛えよおおおおおおおおおあ!!」


 そんな異様な状況に、後続のクオンたちは驚いて足が止まる。 


 すると、夜陰の中から濡羽色の修道服に身を包んだ【黒羽族カラス】のヨルグが姿を現す。


「やれやれ、この程度の罠にかかってくれるなよ。張り合いがない」


 ヨルグが何もないと思えた空間を摘まんでから、指を放すとピンと乾いた音が鳴る。

 よく見れば、教会を囲むようにして縦横無尽に黒く塗られたワイヤーが張られている。


「ワ……ワイヤートラップ……だと……?」


 クオンがその事実に気づいてかろうじて言葉を絞り出すと、ヨルグはカラカラと笑う。


「ご名答。最初からら、このくらいの罠はかけておくのは当然だろ?」


 そう説明して、ひとつタメ息をついて見せたヨルグは、大袈裟なほどに肩をすくめる。


「……どういうことだ?」


 嫌な予感に囚われながら、クオンが聞き返すと、最も聞きたくなかった言葉が返ってきた。


「商会でのお前たちの会話は筒抜けだったってことさ。ああ、確か『ひとり残らず愛してやるよ』だったかな?いやはや、強烈な求愛行為だが遠慮させてもらうよ。何しろ獣人我々は弱い者を嫌うからね」


 不敵に笑うヨルグ。

 どうやら、ドワンとの会話を聞かれていたようだと悟ったクオン。


 すると突然、隣にいた仲間が背中から刃を突き立てられてパッタリと倒れる。


「なっ!?」


 それは、ヨルグと同じように夜陰に紛れていた漆黒の毛並みの猫獣人の女の仕業であった。

 仲間が殺られる今の今まで、そこにいることに気づかなかった。


「アタシたち獣人を相手にするのに、夜襲なんてずいぶんと舐めたマネをしてくれるもんだねぇ。アンタら人族と違ってアタシたちは夜目が利くのにさ」


 猫獣人の女はそう言って嗤いながら、混乱する荒くれ者たちを次々と背後から刺し殺していく。


「そう言ってやるなよ【ジジ】。コイツらは抵抗しない者たちを見て、我々は弱者だと最初からバカにしてたのだ」


 見上げるほどの体躯を誇る熊獣人が現れて、その大きな腕を軽く振るだけで荒くれ者たちが次々と薙ぎ倒される。


「ハッハッハ!愉しい愉しいねぇ!身体が自由に動くのがこれほどにありがたいとは。ああ、聖者様と聖女様を招いてくれた福者エトガーには感謝してもしきれないよ」


 食蟻族アリクイの男は、その長い爪で周りの獲物荒くれ者たちを次々と貫きながらノッソリと闇の中から現れた。


 ここに至って、ようやくクオンは気づく。


 自分たちは取り囲んだつもりでいたが、逆に獣人どもに取り囲まれていたのだと。

 前門の虎後門の狼ならぬ、前門のワイヤートラップ後門の獣人というところだ。


「くっ……、襲撃だ!!背後に気を付けろ!」


 クオンがそう叫ぶも時既に遅し。


 晦冥かいめいに紛れた獣人たちが、反撃すら許さずに一方的な蹂躙を始める。

 夜の教会に荒くれ者たちの断末魔の声が響き渡る。


「お前らは冒険者崩れだったか?魔物相手には強いのかも知れないが、対人戦の専門家オレたちが相手だと分が悪いかも知れないなぁ」


 ヨルグがそう語るも、分が悪いどころではない。

 そこには隔絶した実力の差が横たわっていた。



 

 確かに殺戮劇は始まった。



 だがそれは、荒くれ者たちがさしたる抵抗も出来ずに狩られるという結末であった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ジジ「話は聞かせてもらった!」|ૂ•ᴗ•⸝⸝)”チラッ


最初からバレてたワケですよ。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。


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