第123話 心慌意乱(しんこういらん)

「おいおいおい!何だよこれは!」

「孤児院がピカピカ〜!」

「お前らの服も新品じゃねえか!」

「えっ!?えっ!?えっ!?」

「夢か……痛ッ!」

「私は何を見ているの……?」

「………………」

「すっげええええええええ!!」


 楽しい食事を遮る大声に、一瞬静まり返る食堂。

 誰だよ、こんな不躾な奴らは。


 見れば、食堂に入ってきた数名の少年少女たちが、目を見開いて驚いていた。


 まあ、それはそうだろう。


 今にも幽霊が出そうなほどにボロボロだった孤児院が新築同然になっている上に、子どもたちの服装も新品同様。

 これを驚くなという方がおかしい。


「…………誰?」

「はいっ!あれは【反逆の隻眼】と【輝道の戦士】の連中です!」

 

 ブランが【蒼穹の金竜】のカズキに尋ねると、あの勝気だった少年が背筋を伸ばして答える。

 …………もう、完全に下っ端だな。



 ああ、なるほど。

 この子らが、他の先達冒険者に教えを受けているという孤児院の連中か。


 ん?

 この連中って、先日に見かけたばかりの、先輩冒険者に殴られていた少年少女たちだ。

 あれっ?

 こっちはこっちで、別な冒険者にやたらと褒められていた少年少女たちだぞ。


 なるほど、この連中と【蒼穹の金竜】が張り合って、先を競って無理な狩りをしようとしてたわけだな。



「うおっ!うめええええええええええええ!」

「何よ、これ!?」

「美味しい……」


 そんなことを考えていると、帰ってきた面々の何人かが食卓の料理をつまみ食いしたようだ。

 そのあまりの旨さに大声で叫び出す。

 すると、他の連中もつられて料理へ手を伸ばす。


 …………うるせぇ。


 しかも、臭いし。

 見ろよ、ブランがものすごく嫌そうな顔をしてるじゃないか。


 とりあえず僕は、帰ってきた連中に対して【消臭(デ・オドラント)】を展開して、少年少女たちの汗や泥の臭いを消す。


 その後、さっさと風呂に入ってくるように促す。


「少し待ってもらえれば君たちの分も準備するから、まずは風呂に入ってくるように」

「あぁ?誰だよ、テメエ!?」


 僕がそう告げると、ひとりの犬獣人が反抗する。

 コレはあれだな。

 メンチを切るってヤツだ。

 

 帰ってきたら見知らぬ人物が食卓の中心にいる。

 警戒するのもやむを得ないことだろう。

 それでもこれはないよね。


 下から甜め上げるように睨みを効かせてくる少年を、苦笑いで見つめ返す。

 それでも、牙をむき出しにして威嚇してくる少年。 


 何気に周囲を見渡せば、他の連中も明らかに面白くない態度だ。


「おい!お前ら!この方たちは……」


【蒼穹の金竜】のソウシが慌てて仲裁に入ろうとするが、いったん火が点いた少年たちの暴言は止まらない。 


「黙れ!森にも入れないくせに!」

「こっちは汗水垂らして、金を稼いできたんだよ」

「ちょっと、ルル!それは言い過ぎじゃない?」

「ノアもだよ」

「いいんだよ!」

「俺たちは孤児院のために、やることをやってるんだからさぁ」


 そこに、同じパーティーの仲間たちも制止しようとするが、聞く耳を持たない。

 声高らかに主張しているのは、双方のパーティーのリーダーたちであろうか、ソウシたちをあからさまに貶めている。


「お前たち少し黙れ」


 やがて、キャンキャンとうるさい少年少女たちを見かねたブランが仲裁に入る。

 孤児院の小さい子たちもあまりの喧騒に驚いているし、当然の成り行きだね。


 しかし、ヒートアップした面々は大騒ぎを止めようとしない。

 そして、その中のひとりがブランに向かって致命的な発言をする。


「うっせえよ!邪魔すんな、ブス!」


 ………………よし、泣かそう。


 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★


拙作で『第8回カクヨムWeb小説コンテスト』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。



追伸

『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』

『自己評価の低い最強』


の2作品もエントリーしますので、そちらにもお力添えをいただけたら幸いです。


 更新は三日後です。

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