第194話 痛定思痛(つうてんしつう)

「うううぅ………………」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙…………」


 まだ昼過ぎだというのに、教会の中庭にはスラムの人々があちこちに寝転がっている。

 まさに、死屍累々とした状況だが、これは全てが酔っぱらいの成れの果てだった。


 何ということでしょう。


 スラムの人々の笑顔が嬉しくて、次々と【収納レポノ】に蓄えていた酒を提供していたら、匠もビックリな光景を生み出してしまいました。

 見渡す限りに大のおとなが、陸に打ち上げられた魚よろしく悶えている状況。

 これは、明日は二日酔いで大変だろうなと思いながらも、みんな笑顔なのは良かったと思っている。


 現世の僕はまだお酒が飲めないけど、久しぶりに前世の荒れる飲み会を経験できて嬉しかった。

 ブランは貴族の子女だけあって、さすがにこんなに酷い酒飲みは見たことが無かったようで、当初はだいぶ驚いていたけれど、いつのまにか雰囲気に溶け込んでいた。

 人見知りだけど、時間がたてば誰とでも平等に接することが出来る彼女なら、こんなのもすぐに慣れるだろうと思っていたら案の定だったね。


「…………さてと」

「どこに行くの?」

「ああ、僕をここに導いてくれた人にお礼を言いに行かなくちゃね」

「ん。私も行く」

「ありがとう」


 一段落したと感じた僕はブランを伴って、炊き出しの会場のはずが大宴会の会場になってしまった中庭から、教会裏の墓地へと足を向ける。

 さすがに僕も、エトガー神父のお墓に挨拶をしておかなきゃと思ってのことだった。


「…………あれは?」


 僕たちが墓場のゲートを潜ると、既に先客がいた。

 それは、パウロ大司教とアグニスの街から連れてきたふたりの教会関係者たちであった。

 三人は物陰に隠れて何かを眺めているようだった。

 どう見ても不審者の一味だ。


「お爺、どうしたの?」


 ブランも同様に感じていたみたいで、彼女はこそこそしているパウロ大司教に呼びかける。


「おぅおぅ。これは、聖女さまと……聖者さまか。ちょっとだけ先に行くのは待ってもらえぬか?」


 ブランと僕がやってきたことに気づいたパウロ大司教は、人差し指を自分の口の前に立てて静かにというジェスチャーをしつつ、視線ですぐ先のお墓に僕らを誘導する。


「しんぷさま……。今日ね、せいじゃさまとせいじょさまが来て、みんなをたすけてくれたんだよ。神さまはみんなを見すてないってホントだったんだね……」


 そこにいたのは、ネズミの獣人の【エマ】ちゃん。

 エトガー神父亡き後も、誰も訪れることのない教会の掃除を続けてくれていた心優しい少女。

 彼女は炊き出しのパンとスープをエトガー神父の墓前に供えて、今日あった出来事を伝えていたようだ。


 彼女は病に苦しんでいた弟を、エトガー神父に無償で助けてもらったという恩があったらしい。

 それ以来、少しでもその恩を返そうと教会に通い続けては掃除をしていたとのこと。

 もちろん、まだ幼い彼女がすることなので完璧に清掃できたとは言いきれないだろうけど、この心遣いだけで十分だと思う。

 きっと、天国にいる(?)エトガー神父も喜んでいることだろう。


「ホッホッホッホッホ。健気な少女ですな。彼女もまたエトガーの奇跡には必要な存在だと……。ぜひ、お話を聞きたいものです」


 隣では、エマちゃんを見つめる百戦錬磨のパウロ大司教が不穏なことを呟いているが、止めた方がいいのだろうか?

  

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


エマちゃん逃げてーーーーーーー!!


四字熟語は、本文よりも考えてつけていたりします。

辞書でひいて、ニヤリとしていただければ幸いです。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。



 

 

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