第52話 報恩謝徳(ほうおんしゃとく)
レビューをいただいたので、戻ってまいりました。
週末にもう一話更新するかも。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
クレアがブランに首の後ろを掴まれて、まるで猫の子のように引き離される。
クレアは僕の方に手を伸ばして、離れまいと必死だが、ブランには勝てなかった。
大人と子供の身長差があるにもかかわらず、わざわざ首の後ろを掴んで引き離すためだけに、ブランは【浮遊】の魔術を展開してるくらいだ。
なんと贅沢な魔術の使い方。
魔力が多いブランならではの対応策だ。
クレアからやっと離れた僕は、先程まで自称子爵家の者が座っていた椅子に腰を掛けると、ここまでやってきた理由を説明する。
「ブランに料理を作るから、生卵とマヨネーズが欲しいんだ」
「お安いことです。箱でいりますか?」
「いや、そこまではいらない。ちょっと、新しい料理でも作ろうかなと思ってさ」
「おっ、これは儲けの予感ですか?」
「う〜ん、どうかな?氷雪魔術が使えないとダメだし、輸送に難があるんだよね」
僕が作ろうと考えているのは【アイスクリーム】だった。
先日、大森林で【バニラの木】を見つけて、バニラエッセンスを作っていたので、ひとつチャレンジしてみようと思ったのだ。
「氷雪魔術とは言わずとも、アドルの冷却ではだめですかね?」
「どうかな?とりあえず、作ったら持ってくるよ」
「ありがとうございます」
そんな他愛もない会話をしていると、不意にクレスがとある話題を持ちだす。
「そういえば、スラムの大掃除があったみたいですね」
「ああ、どこぞの仮面騎士がノリノリだったみたいだよ」
僕がちらりとブランに視線を向けると、彼女はちょっと頬を赤くしてそっぽを向く。
「つ〜ん」
あまりの可愛らしさに身悶えしそうだ。
「スラムには、だいぶ【カイウス商会】のヤツらが入り込んでたみたいですね」
昨日の今日のことなのに、もう詳細な情報を選ているとは、さすがに商会の名を借りた諜報組織だけのことはある。
「そんなにいたの?」
「何でも、外部からの流民を受け入れてたのは、カイウスの工作部隊員だったとか」
「へえ〜、何か変な動きをしてたから、おかしいとは思ってたけど……」
「どうやら、王都のニクラス様とも手を組んでいたみたいですし……」
「マジか……」
僕は思わず頭を抱える。
なぜなら、ニクラスとは先代辺境伯のこと。
つまり、僕の祖父がわざわざ息子の治める領地に害を加えるべく、カイウス商会とともに画策していたことが明らかになったのだ。
「お兄ちゃん、これは絶対にゆるせないよね」
「ああ、こうなったらきっちりと報復を……」
どこぞの反社会的勢力の親分のようなコトを口にする商会主とその妹。
いくら僕に恩があるからと言って、そんな血みどろの抗争は求めていない。
今や王都でもカイウス商会に継ぐほどの大商会となり、クレスなんて男爵位を叙爵までされたのに、油断をするとスラムで生活していた頃の素が出るので困る。
「クレス、また口が悪くなってるよ」
「あっ、すみません」
「そもそも君は貴族なんだよ。そんな軽率な行動はするもんじゃないって」
「だって、大恩ある辺境伯様に
「まぁそうだけどさ」
「それに、奴らの目的は、ウチの商会への嫌がらせもあるのかと」
「嫌がらせ?ああ、後見人が父上だから?」
「はい」
「えっ?そこまでカイウスを苦しめてるの?」
「王都に限ってではありますが、主要な取引はウチや非カイウス系の商会で固めました。さすがにアチラは王都の経済を牛耳ってただけあって、まだまだ抵抗していますが、大勢は定まったかと」
「マジかよ~」
「ええ、さすがに『マヨネーズ』や『ケチャップ』といった調味料や、今までとは全く違う最新料理を武器に戦えば負けはありませんよ」
「そう言えば、さっき王家とか言ってたな……」
「はい、おかげさまで国王陛下からもお墨付きを頂けまして」
「何と!」
「国王陛下は、ナポリタンを殊の外お気に召していただけたようです」
「ケチャップ派だったか……」
「ちなみに、王太子殿下はマヨラーです」
「太るぞ……」
ちょっと前世の知識を使ってクレスたちを手助けしていたら、とんでもないことになっていたようだ。
「アル様、乗り込むんでやすかい?」
「殺るならあっしらも……」
「腕が鳴るぜ」
そんな会話をしていると、元スラムの住人だった従業員たちが、ノリノリで声をかけてきた。
「う〜ん、釘を刺してもいいかな?何か掴んでるネタはあるの?」
そう尋ねた僕に、クレスが一本指を立てて答える。
「カイウス傘下の商会が、王都で闇奴隷を扱っています」
「それって……」
「ええ、スラムで消えた者たちのようですね」
「…………すぐに行くぞ」
「「「「応!!!」」」」
そう決断した僕の呼びかけに、クレスや従業員たちが待ってましたとばかりに応じる。
「そうだ、俺たちも戦っていいッスか?こんなん作ったんッス」
従業員のひとりが持ってきたのは、頭まですっぽりと覆う黒色の全身タイツ。
「アル様から話を聞いて、ずっと研究してたんッスよ。ジャイアントスパイダーの糸で織ってあるので、耐衝撃耐魔術に優れた一品ッス」
ドヤ顔の従業員の姿に、僕は深いため息をつく。
ジャイアントスパイダーの糸なんて、ものすごい高級品じゃないか。
しかも、耐衝撃耐魔術にまで優れてるなんて、どんだけ開発に力を入れてるんだよ。
―――そもそも、その姿は敵方の
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