第179話 相思相愛(そうしそうあい)

 僕たちがたどり着いたブーフヴァルト辺境伯領最南端の町【サファイラス】は、アグニスの街に比べるとふた回りほど小さかったが、特筆すべきは獣人の多さだった。

 シュレーダー辺境伯ウチにもブランたちを始めとして多くの獣人たちが住んでいたが、それでもせいぜい全住民の三割程度。

 ところが、この街は七割ほどが獣人であったのだ。


 もともと、このブーフヴァルト辺境伯領はとある獣人の国だったのだが、建国当初から疫病や食料問題を抱えており、最終的にはそれを人道的立場で支援していたグランシア王国に臣従する形で併合されたという歴史を持つ。

 何十年も前の話とは聞いているが、この地に獣人が多いのはそのような理由からだった。


 そして現在の東部辺境伯は、今は無き獣人の国の王族の血筋の者がその地位に就いているのだった。


 右を見ても左を見ても特徴的な耳や尻尾を持つ人ばかり。

シュレーダー辺境伯ウチでも見かけないような種族の獣人があちこちにいる。

 それが珍しくてついついよそ見をしていると、僕は思い切り尻をつねられる。


「痛ッ!」


 何があったのかと振り返れば、そこにはほほを膨らませてお怒りのブランの姿が。


「…………アルの浮気者」

「いや、違うよ……見たことがない獣人がいっぱいだなった……」

「鼻の下伸ばしてた……」

「違う違う違う……そんなことはないって」

「…………尻尾ならいつでも見せてあげるのに……」

「えっ……?」


 僕が必死で言い訳を重ねていると、思いもよらないセリフが聞こえて来た。

 獣人が相手に「尻尾を見せる」と告げるのは、自分の隠している部分もさらけ出すという意味だ。

 それはつまり、「自分の全てを見せる」と言うことで…………。


 その意味を理解した僕は思わず顔を赤くしてうつむく。

 ブランも自分の爆弾発言を思い出して同じようにうつむいてしまう。


「オーナーも副オーナーも仲睦まじくて幸いですね」

「違いますよ、ロイドさん。あれはバカップルって言うんです」

「いや……それは……さすがに失礼かと……」

「白昼堂々といちゃついてるくらいの重症ですから、これくらいは良いんですよ」


 ロイドとアリシアが何か言ってるけど、今は恥ずかしくて顔を上げられない。

 覚えてろよ…………。


「おおっ、兄貴と姉御が赤くなってるよ。ヒューヒュー」


 そして、お調子者のカズキが、モジモジしている僕たちを見てもからかっている。


「………………後で殺す」


 そして、誰にも聞こえないくらい小さな声で、ブランがポツリとそんなセリフを口にする。


 カズキ、御愁傷様。

 君の命運は尽きたようだよ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


久々ですが書いていて楽しいです。

一人称は書きやすいなと思う今日この頃です。


とりあえず、バカップルの話だけで終わってしまったので、早目に更新もしたいですね。



モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。

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