第37話 故事来歴(こじらいれき)

 グランシア王国は大陸の中央に位置する歪な四角形をしている。


 西方には大森林と呼ばれる魔境が広がり、他の三方が隣国と接している。

 故に、辺境伯は隣国と接している三方にのみ存在する。


 ちなみに、王国の北東部には唯一の港があり、王国の玄関口となっている。

 この港は、漁港かつ貿易港でもあるため、そこから得られる利権や収益は計り知れない。


 この港がある【エアヴァルト領】を持つのが、母さんの実家のクリーク侯爵家である。

現当主の祖父は港という唯一無二のものを持っているばかりに、まさに濡れ手に粟でウハウハである。


 聞いたところでは、港にはマグロのような赤身の魚が水揚げされるらしい。


 魚醤や他国からの珍しい香辛料もあるそうなので、ゆくゆくは訪問したいと思っている。



 

 国内は各爵位相応の規模の領地に分かれており、それらを支配するのが【領地貴族】と呼ばれる存在で、領地を持たずに王城や王都等で働く高官を【法衣貴族】と呼んで区別している。


 ぶっちゃけると、領地貴族と法衣貴族は仲が悪い。

 領地貴族は法衣貴族を「王都の犬」呼ばわりするし、逆に法衣貴族は領地貴族を「田舎者」扱いだ。


 なので、父さんが王都に出る度に、法衣貴族とイヤミの応酬を繰り広げるわけだ。


 父さんも流石に辺境伯の爵位を持つだけあり、法衣貴族になかなか鋭い口撃を放っていたと聞いたことがある。




 

 そんな国内事情にあって、貴族の支配から完全に独立した存在が【冒険者】である。


 それは文字通り、冒険をする者のことで、大森林に分け入って貴重な動植物を採取したり、各地に出没する魔物を討伐したりする者たちである。


 彼らは、冒険者ギルドで斡旋されるクエストによっては、国を跨いで活動することも珍しくなく、それが何者にも縛られないといった所以である。


 もちろん、その仕事柄、危険とは常に隣合わせあり、路傍に骸を晒すことも珍しくはない。


 だが、強さと技術さえあれば、どこまでも稼げるのも間違いない。

 冒険者にはランクが設けられており、大陸全土でも片手ほどしかいないとされているS級冒険者は、国によっては王族待遇で迎えられる程である。


 そんな冒険者になるために、僕は心配する父さんに模擬戦で勝利することで許可を得たわけだ。


 時折り聞いた、父さんと母さんの冒険者時代の逸話がまさに冒険といった感じで、昔から胸を踊らせていた。


 見知らぬ土地や、強大な敵。

 未だ誰にも踏破されていないダンジョン等、枚挙にいとまがないほどの冒険に憧れたのだった。


 せっかく冒険者になるなら、父さんたちを越えることを目指すのも悪くない。



 この世界に転生して数年、僕は生きて行く力を手に入れることができた。

 そして、前世同様いやそれ以上の素晴らしい両親や、愛くるしい幼馴染み、信頼できる仲間たちを得ることができた。


 今なら転生して心から良かったと思える。


 これからどんなことがあるのだろうか、どんな場所を見ることができるのだろうか。


 

 僕はこれからの未来に思いを馳せるのであった。



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