第74話 前途有望(ぜんとゆうぼう)

「じゃあ、さっさと終わらせちゃおう。ブランは荷物運びと工事の手伝いをお願い」

「うん」

「僕は排水溝の掃除と逃げた猫探しと、魔道具への魔力補充をしちゃうから。で、お昼を食べてからは森で薬草の採取だね」

「分かった」

「じゃあ、終わったらどこかで合流する?」

「分かりやすく、あの時計台の下で」

「了解、じゃあよろしくね」

「任せて」

「よし、いよいよ冒険者生活のスタートだ」


 僕とブランはそれぞれ別れて、クエストに挑む。


 ブランには、どちらかと言えば力仕事をお願いした。

 彼女は獣人という種族的にも力持ちだし、魔術もあるので問題なくこなしてくれるだろう。

 

 そして僕は、主に魔術を用いる作業を行うことになる。


「こんにちは~」


 僕は最初の依頼人である、街の顔役の元に向かう。

 現れたのは、狸の獣人だ。


 基本的に、耳や尻尾といった獣の特徴を備えた者が獣人で、獣の姿に変化できるのが人獣とされている。


 今、目の前にいる御仁は、狸特有の丸い耳でフサフサの縞々模様の尻尾を持っていた。

 年齢は母方の祖父のクリーク侯爵と同じくらいだろうか、好好爺といった表現がよく似合う男性だった。


「おや、ずいぶんと可愛らしい子がやってきたな」

「はじめまして。アルフレッドと言います。今回は排水溝の清掃依頼を受けて参りました」

「ああ、受け答えも丁寧だね。こりゃあ前途有望かな?ところで、今日はひとりかい?清掃は力作業になるから大変だよ?」

「大丈夫です。こう見えて魔術師なので、何とかします」

「何と、その歳で魔術師と?そりゃすごいな。それじゃあ期待してるよ」


 そんな会話をすると、顔役は僕に仕事の内容を説明する。


「お願いするのは、この地区の排水溝の清掃だ。ほっとくと疫病の原因にもなるから定期的に清掃をしてるんだ」

「分かりました。それじゃ早速始めます」


 僕はそう告げると魔術を展開する。

 イメージは、前世で慣れ親しんだ消火ホースから出る強烈な水流。


「無詠唱?何だこの水?」


 顔役が目を丸くして驚いている。

 ふふふ……すごいでしょ。


 ちょっと得意気に作業を行う。

 強烈な水流で排水溝の汚れを押し流す方法だ。

 

 さあ、初クエストに挑戦だ。


☆☆☆


 約束の時間になってもアルフレッドが現れないので、ブランはまたかとため息をつく。  

 おそらくは、最初の依頼で躓いていると目星をつけた彼女は、最初にアルフレッドに振り分けた残りの依頼をこなすことにする。


 案の定、依頼人のもとに相棒はまだ来ていないとのこと。

 魔術を使うのはアルフレッドの仕事とはいえ、ブランも全くできないわけではない。

 ただ、効率的ではないからアルフレッドが請け負っていただけだ。


 いくつかの依頼をこなした彼女は、アルフレッドが最初に依頼を受けた顔役のところに向かう。


「だから、そこじゃダメなんですよ」

「しかし、こうするのが習わしなんで、どうしようもないぞ」

「そこを何とかしましょうよ」

「そんな簡単に出来るわけなかろうが」

「そこは無理をするところです」


 するとそこには、街の人と意見を戦わせている幼馴染みの少年の姿があった。




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