第8話 方枘円鑿(ほうぜいえんさく)
僕の幼馴染みのブランは、ゆくゆくは僕の専属メイドになると公言している。
年齢は僕のひとつ上なので6歳。
まだ遊びたい盛りなのに、小さな頃からメイドとして働いている。
肩まで伸びたプラチナブロンドの髪と頭の上にちょこんと乗ったイヌ耳が特徴的だ。
その容姿は控えめに言っても美少女。
前世で言えば西洋風のこの世界においても、その姿は神様が依怙贔屓したんじゃないかと思うほどに整っている。
そんな彼女は、何かあれば僕のことを過剰なくらい褒めてくれる。
それはきっと、僕が一部の家臣から『赤鳥』と揶揄されていることを知っているからなのだと思う。
シュレーダー家では、炎の神獣【
もちろん、それは家臣や領民たちも心得ていて、自分達は炎の民だと公言して憚らない者もいるくらいだ。
そんな炎に誇りを持つ家の中で『炎の魔術を見て倒れるほどの腰抜け』『火炎魔術を使えない』嫡男がいればどうなるか。
【不死鳥】が炎を纏わなければ、単なる【赤いだけの鳥】に成り下がる。
つまり、【赤鳥】というのは【不死鳥】に成れない無能と侮蔑する言葉なのだった。
もちろん、僕の両親がこのような陰口を叩く者を許しておくことはない。
そんなことを言っていると父の耳に入れば、追放や禁錮といった厳重な処罰が下される。
いわゆる不敬罪だ。
だがここで家内の微妙な事情が関係してくる。
父は数年前にクーデター気味に家督を継いだ経緯があり、前辺境伯派と呼べる者がまだ領内の重要なポストに就いているのだ。
そして、僕のことを揶揄しているのは、主に前辺境伯派である。
それまで優遇されていたのに、代替わりにより冷遇された鬱憤を嫡男を揶揄することで晴らしているのだ。
本来なら前辺境伯派を全て排除出来れば最良なのだろうが、そんなことをすれば前辺境伯派と現辺境伯派で家が割れる。
内乱になってもおかしくないのだ。
だから今は耐えなくてはならないと、苦い顔をした父に言い聞かされたものだった。
だんだんと、前辺境伯派の力を削いでいる今は波風を立てることは避けなくてはならないのだ。
そんな微妙な環境にあるからこそ、ブランが何かにつけて褒めてくれるのは、僕の心を救ってくれているのだ。
「今日もありがとう。ブラン、いつも感謝してるよ」
「ん」
そう素直に感謝の言葉を告げると、言葉少なく恥ずかしがる姿がとても可愛らしい、専属メイド(予定)さんなのであった。
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