第7話 愚公移山(ぐこういざん)

 【魔法】とは、この世界に存在する魔力によって引き起こされる現象や事象のことをいう。

 分かりやすく言えば、魔力によって引き起こされるあらゆる現象のことだ。


 【魔術】とは、魔力に方向性を持たせ、人の望む結果を生み出す術をいう。

 分かりやすく言えば、魔力を炎にしたり、氷にしたりする方法のことだ。


 大雑把だが、そんな感じらしい。


 だから、この世界には【魔術師】はいても【魔法使い】はいないらしい。

 魔法は自然現象を指すわけだからね。

 

 

 

 家庭教師である【プレセア】先生から魔術を習って数週間、ようやく魔法と魔術の違いを理解できてきた。


 基本的にこの世界は魔力が満ちているため、あらゆる自然現象が魔法で説明がついてしまう。


 このため科学というものが存在せず、近い存在として【錬金術】があるものの、一般的にはまだ浸透していないのが現実だ。


 僕が見る限り、たいていの物理法則や自然現象は前世と変わらないように見える。


 もっとも、何もない場所から炎や氷を生み出せる魔力の万能さには驚きしかないが。




 魔術を使うには決まった詠唱をしつつ、体内の魔力を炎や氷といった現象に変えるという流れになる。


 体内の魔力についてはすぐに分かった。

 前世では感じたことがない胸のあたりの違和感をずっと感じていたのだが、どうやらそれが体内の魔力だったようだ。


 こんなに若いのに、狭心症か逆流性食道炎かと自分の体調不良を疑っていたのだが、謎が解けて良かった良かった。


 プレセア先生は、父が招聘してくれた魔術の先生だ。

 丸メガネが似合う美人さんで、王都の王立魔術学院を主席で卒業したばかりの俊英。

 しかも、その教え方は合理的で分かりやすい。


 普通に考えても、引く手数多の才媛なのだが、我が父上はどんな手段で辺境まで引っぱってきたのだろう。


 先生の教えに従い、少しずつ前に進んできた結果、ついに僕も魔術を発動させる段階にたどりつく。


「そう、アルフレッド君、なかなか筋がいい」

「ありがとうございます」

「ほら、もうすぐだ」

「あっ!」

 

 そして僕は今、先生の教えに従って、手のひらの上に小さな光を灯したのだった。


 キターーーーー!!!


 僕にも魔術が使えた事実に、テンションがバク上がりだ。


 この光は手のひらから一センチほど浮かんだ状態でぼんやりと光っている。


 僕は手のひらの光を見つめてテンションが上がりっぱなしだ。

 この喜びをどう表現すればいいやら。


 気持ちは完全に童心にかえっている。

 それは仕方ないだろう、前世ではフィクションの話だった魔術が目の前にあるのだから。


「お〜っ」


 この様子を見つめていたブランがパチパチと手をたたく。

 僕の専属メイド(予定)のブランは、普段から僕と一緒に様々なことを学んでいるが、獣人は皆魔術が使えないために、この時間ばかりは見学となる。


「ビックリ!こんなに早く魔術を使えるとは思わなかった」

「ありがとう」


 僕はブランの称賛を素直に受け入れるのであった。

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