第213話 正体判明(しょうたいはんめい)

擬装驚いたフリも見抜けず、この程度の囲みすら抜けられぬくせに、勝利まで確信するとはまことに愚か……よのう」


 パウロ大司教が足元に転がる荒くれ者たちを見下ろす瞳は、聖職者とは思えぬほどに冷徹かつ酷薄で、そこに慈愛という気持ちは一欠片も込められていない。

 普段の好好爺といった雰囲気はどこに行ったのか、そこにいる老人は歴戦の戦士の雰囲気を醸し出していた。


 すると、そこに【黒羽族カラス】のヨルグが拍手をしながらやって来る。


「いやはや、お見事ですな。これほどの者たちを一瞬で……」


道を空けましたな?私の腕前を見るために?」

「さすがにバレバレでしたか」


 ヨルグは隠すことすらせずに、アッサリと認める。


「ウチで諜報を担当してる【ジジ】ってのがいるんですがね。アイツがやたらとビビってるんですよ。『足音が聞こえない』ってね」

「ほう」

「一応、オレたちは軍にいたんでね。なかなか怯えることなんてないんですが、貴方だけは底が知れない。何者だと思ったんですが……その大鎌を見て合点がいきましたよ」


 笑みを浮かべたままのヨルグを見つめるパウロ大司教は、無言でその言葉の先を促す。


「【聖教国】の誇る精鋭【神の裁定イウーディカーレ】。数年前にトップが代替わりしたはずだが、先代は身の丈ほどもある大鎌【死の大鎌デスサイス】を用いて幾人もの神敵の首をはねたという……」

「…………」

「確か……【死神モルス】と呼ばれた……」


 ヨルグがそこまで話すと、パウロ大司教はひとつタメ息をつく。


「『神』を冠するなど、畏れ多いことなのですがね……」

「おやおや、素直に認めなさるのか?」

「まぁ、私の方もこの辺りで素性を明らかにしておいた方が、貴方たちとは良好な関係を築けるかと思ってましたからね」

「ああ、だからこの程度のヤツらを相手にそちらの得物を使われたのか?」

「察しが良い方は嫌いじゃありませんよ。さすがは【東伯の頭脳】と称されたお方です」

「チッ、こっちの素性もバレバレかよ」

「貴方たちも、軍人としての癖が抜けてませんでしたからね。あとはちょっと周りの方々に聞けば……」


 人と烏の『タヌキ』が、顔を見合わせて笑い合う。

 相手は自分と同類であり、少なくとも敵ではないということを確信したふたりは、ずっと持ち続けていた警戒心を解消させる。


「まぁ、私としては、聖者アルフレッド様と聖女ブラン様の慈悲を無駄にされるようなことがない限りは、相手が誰であろうと静観するつもりでしたけどね」


 そうパウロ大司教が伝えれば、ヨルグは少々面白くない顔をしながら反論する。


「獣人たちの義理堅さを侮らないでもらいたいな。我々獣人は、ひとたび恩を受ければ、それを生涯にわたって返そうとするお人好しどもの集まりだぞ」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


パウロ大司教の正体回でした。


次回、そのあたりを多少膨らませてこの章は終わりの予定です。

そろそろ、主人公を出さないと忘れられそうなので……。


これで、本作については今年最後の更新となります。

次の更新は正月です。


今年は本作の更新再開があり、思い出深い年となりました。

なかなか大変ではありましたが、やりたいことをやれたので良かったかと。


今後の展開としては、東部辺境伯との絡みやカイウス商会との因縁。

あとは、仮面騎士に新入りが加わることを考えています。

四字熟語のストックが切れない限りは続けて行きますので、今後も応援をお願いします。


それでは、皆さまも良いお年をお迎えください。




モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。


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